

- 医療関係者向け情報サイト
- 医療ナレッジ
- 教えて!周術期の薬剤
- 教えて!鎮静薬
- ベンゾジアゼピン受容体拮抗剤 フルマゼニル
監修:自治医科大学 麻酔科学・集中治療医学講座 教授/
自治医科大学附属病院 集中治療部 部長
讃井 將満 先生
覚えておきたい!3つのポイント
- 1
ミダゾラムやレミマゾラムのようなベンゾジアゼピン系薬剤の拮抗薬
- 2
ベンゾジアゼピン系薬剤を長期間、高用量投与している場合、
フルマゼニルの急速な投与により離脱症状が現れる可能性がある - 3
半減期が短いため、再鎮静に注意する


ご使用にあたっては各製品の電子添文をご確認ください。
※イラストはイメージです。
- ■警告
-
- ・本剤およびベンゾジアゼピン系薬剤に対し過敏症の既往歴のある患者
- ・長期間ベンゾジアゼピン系薬剤を投与されているてんかん患者(痙攣が生ずることがあります。)
ベンゾジアゼピン系薬剤による覚醒遅延や呼吸抑制時に使用
作用機序
フルマゼニルはベンゾジアゼピン受容体に結合しますが、固有活性をほとんど持っておらず、中枢性ベンゾジアゼピン受容体に競合的に結合することでベンゾジアゼピン系薬剤と置き換わり、ベンゾジアゼピン系薬剤の薬効を消失させ、拮抗します1)。
効能・効果
ベンゾジアゼピン系薬剤による鎮静の解除および呼吸抑制の改善
※投与の対象は、手術または検査時にベンゾジアゼピン系薬剤で鎮静された患者で覚醒遅延や呼吸抑制が認められた場合、ベンゾジアゼピン系薬剤を高用量あるいは長期にわたり投与された患者で過度の鎮静状態が生じたり必要以上に鎮静状態が持続した場合、もしくは大量にベンゾジアゼピン系薬剤を服薬した中毒患者です。
※侵襲の大きい手術を受けた患者、精神的不安の程度が高い患者は早期に覚醒させるより、ある程度鎮静状態を維持するほうが望ましい場合があるので、患者の状態を考慮し、覚醒させることが必要と判断される場合にのみ本剤の投与をお願いします。


使用頻度の高い手術について
患者さんの覚醒時にベンゾジアゼピン系薬剤が原因の覚醒遅延や呼吸抑制が起こった場合に使用します。
使用方法
投与経路
用法・用量
手順① 初回0.2mgを緩徐に静脈内投与します。
手順② 投与後4分以内に望まれる覚醒状態が得られない場合は、さらに0.1mgを追加投与してください。
手順③ 以後、必要に応じて、1分間隔で0.1mgずつを総投与量1mgまで、ICU領域では2mgまで投与を繰り返します。
ただし、ベンゾジアゼピン系薬剤の投与状況および患者の状態により適宜増減してください。

肥満患者さんへの投与量はどう計算したらよいですか?
理想体重?それとも実体重?
本剤は体重換算をする薬剤ではないです。しかし、ベンゾジアゼピン系薬剤の蓄積や過量投与を疑って使用しているときは追加投与し、その場合、肥満患者さんでは投与量が多くなることもあります。
投与の準備
ミダゾラムやレミマゾラムのようなベンゾジアゼピン系薬剤を使用する場合は、拮抗できるようにフルマゼニルを準備しておきましょう。
希釈せず、そのまま静脈内投与することが多いです。
薬物動態
1、2、4mgを静脈内に単回投与したときの消失半減期:49~52分2)
- 代謝・排泄3,4)
ほとんどが肝臓で代謝され、腎で排泄されます。
作用発現時間・作用持続時間
臨床的な作用持続時間は通常30〜60分3)
使用時の流れ:手術終了時(麻酔前投薬や麻酔にベンゾジアゼピン系薬剤を使用)

術前評価で患者さんの服用薬や状態を確認してください。
・長期間ベンゾジアゼピン系薬剤を投与されている患者さん
・精神的不安の強い患者さん
-
ロクロニウム(筋弛緩薬)を拮抗するためにスガマデクス(筋弛緩拮抗薬)を投与
-
薬の効果を消失(拮抗)させる順番は、筋弛緩薬→鎮静薬(麻酔薬)です。
筋弛緩薬の前に鎮静薬の効果を消失させると、患者さんは目が覚めているのに動けない状態になります。 -
覚醒遅延もしくは呼吸抑制がみられる
-
使用したベンゾジアゼピン系薬剤を拮抗するためにフルマゼニル0.2mgを投与
-
患者の観察をする
-
投与後4分以内に望まれる覚醒状態が得られない場合はフルマゼニル0.1mgを追加投与する
(1分間隔で0.1mgずつを総投与量1mgまで、ICU領域では2mgまで) -
麻酔・筋弛緩薬の効果の残存がないことを確認
意識・呼吸・循環動態が安定していることを確認 -
抜管
※手術麻酔については、こちらで全体の流れをご覧いただけます。
使用する上での重要な注意点
- ベンゾジアゼピン系薬剤によっては消失半減期がフルマゼニルの消失半減期(約50分)より長いものがあり、これらの薬剤をとくに高用量投与していた場合はフルマゼニルにより患者が覚醒した後もベンゾジアゼピン系薬剤の作用が再出現する可能性(再鎮静)があるので患者を監視下におき十分注意する必要があります。
また、麻酔の影響が完全に消失するまでは、自動車の運転など危険をともなう機械の操作に従事しないよう患者にご説明をお願いします。 - 麻酔科領域において手術終了時にフルマゼニルを使用する場合は、筋弛緩剤の作用消失後に投与してください。
- フルマゼニルを用法・用量の範囲内で繰り返し投与しても意識および呼吸機能に有意な改善がみられない場合はベンゾジアゼピン作用薬以外の原因を考慮してください。

その他の麻酔薬や筋弛緩薬、低体温など、鎮静を遷延させるような状況は確実に除外しましょう。
副作用
重大な副作用
詳細やその他の副作用については各製品の電子添文をご確認ください。

痙攣や興奮などのベンゾジアゼピン系薬剤の離脱症状に注意しましょう。
併用薬
併用禁忌
併用注意
- フルマゼニルが作用を低下させる薬剤
ベンゾジアゼピン系薬剤 - フルマゼニルによるベンゾジアゼピン系薬剤の作用低下にともない、中毒作用が増強する薬剤
三(四)環系抗うつ剤
取り扱い・管理
劇薬として他の医薬品と区別して、貯蔵・陳列する必要があります。
なお、施錠は不要です。
<参考資料>
1) 花岡 一雄:現代医療,1992;24(7):1921-5.
2) 関野 久倫 他:医学と薬学,1990:23(4):777-96.
3) 橋本 敬太郎 他.監訳:グッドマン・ギルマン薬理書・第13版[上巻],廣川書店,2022:555.
4) ロナルド D.ミラー:ミラー麻酔科学,2007:272.