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教えて!周術期の薬剤
教えて!筋弛緩薬
非脱分極性筋弛緩剤 ロクロニウム臭化物
覚えておきたい!3つのポイント
-
1
効果発現が速いため、
迅速導入にも用いられる -
2
主に肝臓から未変化体として排泄され、
蓄積性は少ない -
3
スガマデクスナトリウムにより
迅速に拮抗できる

ご使用にあたっては各製品の電子添文をご確認ください。
- ■警告
- 本剤は、その作用及び使用法について熟知した医師のみのご使用をお願いします。
- ■禁忌
-
- ・本剤の成分または臭化物に対して過敏症の既往歴のある患者
- ・重症筋無力症、筋無力症候群の患者のうち、スガマデクスナトリウム(以下、スガマデクス)に対して過敏症の既往歴のある患者(筋弛緩回復剤であるスガマデクスを使用できないので、筋弛緩作用が遷延しやすいです。)
効果発現が速く、持続投与も可能な薬剤
作用機序
効能・効果
- 麻酔時の筋弛緩
- 気管挿管時の筋弛緩

使用頻度の高い手術について
麻酔維持期も含めて使用頻度が高いのは、開腹手術、腹腔鏡や胸腔鏡下手術です。
使用方法
投与経路
用法・用量
成人
※作用持続時間は用量に依存して長くなるため、挿管用量として0.9mg/kgを投与する際は注意してください。
持続注入により投与する場合は、7µg/kg/minの投与速度で持続注入を開始します。
※持続注入の場合、筋弛緩モニタリング装置を用いて、適切に注入速度を調整してください。
年齢、症状に応じて適宜増減します。

肥満患者さんへの投与量はどう計算したらいいですか?
理想体重?それとも実体重?
肥満患者さんへの投与量に関しては、麻酔科医の考え方次第だと思います。たとえば、麻酔導入時の気道確保のために、より迅速な効果発現を得たいという意図があれば実体重換算でいいですし、作用持続時間の延長を回避し、正常体重患者と同様の作用時間を得たいという方針であれば、理想体重換算で投与すればいいでしょう。もちろん筋弛緩モニタリングによる評価は必須です。
投与の準備
一般的に生理食塩液やブドウ糖液で希釈されます。原液での使用も可能です。
静脈麻酔薬のチアミラール、チオペンタールやフロセミドなどの塩基性薬物と混合すると沈殿を生じるので、点滴回路内で混在しないようにしましょう。
別々の投与経路で使用するか、同一回路を使用する場合は、回路内の薬物を十分に流して(生理食塩液などでフラッシュ)から、次の薬物を投与しましょう。
当院では小児も含め希釈はせず、原液で使用しています。
薬物動態
代謝物として17-OH 体が考えられますが、ヒトではほとんど検出されず、効力もロクロニウムの1/20で、臨床使用上では筋弛緩作用に影響しないとされています。ただし、肝機能障害や肝血流を遮断するような手術の際は、蓄積する可能性が考えられます。
作用発現時間・作用持続時間1)
作用持続時間:36~73分
使用時の流れ

- ロクロニウムは毒薬です。適正な管理、保管が必要です。
- 誤薬を防ぐために、ロクロニウムを吸引するシリンジサイズを、施設の中で決めておきましょう。ラベリングも確実に。
- 筋弛緩薬へのアレルギーを有する方は、薬液に触れないよう手袋をしてご準備を。
-
筋弛緩モニタ―の装着
筋弛緩モニターに関しては、
こちらをご覧ください。 - 酸素吸入
-
パルスオキシメータで
SpO2の適正値までの上昇を確認 - オピオイド鎮痛薬、静脈麻酔薬の順に投与
-
呼名反応消失、
脳波モニターを確認 - 筋弛緩モニタリング開始
- ロクロニウムを投与
-
点滴を全開にして迅速にボーラス投与します。投与後の有痛性逃避反応に備え、体動抑制をしましょう。
点滴路が抜去されないよう注意。マスク換気が容易にできているかチェック! - 脳波モニター値、筋弛緩モニターを確認
-
気管挿管
- 維持へ
使用する上での重要な注意点
- ロクロニウムは、呼吸抑制を起こすので十分な自発呼吸が回復するまで必ず人工呼吸器などを使用して調節呼吸を行ってください。
- 安全かつ適切に使用するため、筋弛緩の程度を筋弛緩モニターで客観的に評価しましょう。
- 麻酔導入後、ロクロニウム投与前に気管挿管の目的でスキサメトニウム塩化物水和物(以下、スキサメトニウム)を投与した場合には、スキサメトニウムの効果の消失を確認した後にロクロニウムを投与すること。

※下記「併用薬」を参照。
- スキサメトニウムで過去にアナフィラキシー反応が生じた患者では、ロクロニウムでも同様にアナフィラキシー反応が生じる可能性があるので、注意してください。
- 筋弛緩作用の残存による呼吸抑制、誤嚥等の合併症を防止するため、患者の筋弛緩が十分に回復したことを確認した後に抜管します。
- 拮抗薬であるスガマデクス投与後にロクロニウムを再投与する必要が生じた場合、ロクロニウムの作用発現時間が遅延する可能性があるので、筋弛緩モニタリングにより評価しながら慎重に投与してください。
重症筋無力症、筋無力症候群の患者
- 非脱分極性筋弛緩剤に対して感受性が極めて高く、筋弛緩作用が増強・遷延しやすいので、筋弛緩モニタリングを必ず行ってください。
-
拮抗薬はスガマデクスを使用しましょう。
※コリン作動性クリーゼの可能性があるので、筋弛緩状態からの回復に抗コリンエステラーゼ剤(ネオスチグミン)を使用しないでください。

副作用
重大な副作用
詳細やその他の副作用については各製品の電子添文をご確認ください。

併用薬
併用禁忌
併用注意
-
併用によりロクロニウムの作用が増強する薬剤
吸入麻酔剤、カリウム排泄型利尿剤、MAO阻害剤、プロタミン製剤、β遮断剤、メトロニダゾール、カルシウム拮抗剤、シメチジン、ブピバカイン、抗生物質(アミノグリコシド系、リンコマイシン系、ポリペプチド系、アシルアミノペニシリン系)、マグネシウム塩製剤、キニジン、キニーネ、フェニトイン、リドカイン -
併用によりロクロニウムの作用が減弱する薬剤
塩化カルシウム製剤、塩化カリウム製剤、プロテアーゼ阻害剤、副腎皮質ホルモン剤、抗てんかん剤(急性投与では増強、慢性投与では減弱します。) -
その他の薬剤
スキサメトニウム:スキサメトニウム投与後にロクロニウムを投与すると、ロクロニウムの作用が増強します。ロクロニウム投与後にスキサメトニウムを投与するとロクロニウムの作用が増強もしくは減弱されます。
拮抗薬
- スガマデクス
- ネオスチグミンメチル硫酸塩・アトロピン硫酸塩水和物 ※筋弛緩モニターによるある一定の回復または自発呼吸の発現を確認した後に投与すること
取り扱い・管理
毒薬の受払い簿などを作成し、帳簿と在庫現品の間で齟齬がないよう、定期的に点検する等、適正に保管管理してください。
毒薬では廃棄についての特別な規定はありません。
1) 橋本 敬太郎、他監訳: グッドマン・ギルマン薬理書・第13版[上巻], 廣川書店, 2022, 284.
2) 日本麻酔科学会「安全な麻酔のためのモニター指針」
3) Sadleir PH, et al.: British Journal of Anaesthesia 2013; 110(6): 981-7.