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目次

監修:関西医科大学麻酔科学講座 前教授 新宮 興 先生(2016年1月作成)

無痛分娩を受けられる方へ

現代の医療では、お産に伴う強い痛みに対し産婦さんが希望すればいつでも痛み止めの薬を用いて痛みを取ってもよいと考えられています。

お産の痛みを最も安全でかつ有効に和らげられる鎮痛方法が硬膜外鎮痛法です。
この硬膜外鎮痛法を用いた分娩を硬膜外無痛分娩あるいは単に無痛分娩と呼んでいます。
海外ではすでに無痛分娩が広く行われており、硬膜外鎮痛法に習熟した麻酔科医が主に麻酔を担当しています。

ここでは、硬膜外無痛分娩の具体的な方法や注意すべき点などについて説明いたします。
不明な点や気になることがありましたら、担当の医師や看護師に遠慮なくお尋ねください。

無痛分娩のしくみ

硬膜外鎮痛法は、腰から足にかけて下半身だけに軽い麻酔を行う部分麻酔です。
まず、細くて柔らかいカテーテルと呼ばれるチューブを腰の脊髄神経の近くにある硬膜外腔と呼ばれる場所に入れます。
そして、このカテーテルから局所麻酔薬とオピオイド鎮痛薬を混ぜて注入します。

子宮が収縮する度に起こるお腹の痛みいわゆる陣痛や、産道が広がるために起こる分娩前の強い痛みは、腰から下の脊髄神経に集まり脳に伝えられます。
硬膜外腔に注入された鎮痛薬は局所で作用し、脊髄神経に伝わる痛みの信号を止めることができます。このおかげで産婦さんは痛みを感じにくくなります。

カテーテルはベッドの上で横もしくは座った姿勢で背中を消毒してから入れます。
皮膚表面に必ず痛み止めを行ってから入れますのであまり痛くはありませんが、入れている間は急に動かないよう注意が必要です。
カテーテルを入れるタイミングは様々ですが、産婦さんと相談しながら決めることがほとんどです。

硬膜外無痛分娩の特徴

無痛分娩の最大の特徴は、痛みを軽減することで精神的に落ち着いた状態で出産を迎えられることです。
同じように無痛分娩を行っても、様々な理由で痛みが軽減される程度は産婦さんによって異なりますが、痛みでパニック状態になるようなことはほとんどありません。

分娩に対する恐怖心や痛みによるストレスが産婦さんや赤ちゃんに悪い影響を及ぼすことも知られています。
不安の強い産婦さんや高齢出産、高血圧や心臓の病気など何らかの問題がある産婦さんの場合、積極的に無痛分娩を行うこともあります。

硬膜外カテーテルをうまく利用すれば、帝王切開術のための麻酔にすぐに対応することも可能です。
また、緊急に帝王切開術が必要になった場合であっても、麻酔科医が産婦さんの状態をあらかじめ把握していることも特徴の一つといえます。

硬膜外無痛分娩で起こりうること

硬膜外無痛分娩中は、鎮痛薬の作用でかゆみを感じたり、発熱がみられることがあります。
一時的に赤ちゃんの心拍数が減ることもありますので、無痛分娩を開始した直後は赤ちゃんの様子を注意して観察します。
ベッドの上で自由に動くことが可能ですが、下半身は軽いしびれを感じる程度まで麻酔されていますので歩き回ることは基本的に禁止しています。

まれに、硬膜外カテーテルが硬膜を越え脊髄のすぐ近くまで入ってしまうことがあります。
この場合、麻酔薬が非常によく効き、足に力が入らなくなったり、呼吸が苦しくなったりします。
カテーテルが硬膜外腔の血管の中に入ってしまった場合、これに気付かずに薬液を注入すると舌や唇がしびれ、けいれんが生じたりするなど麻酔薬の中毒症状が出現することがあります。
また、カテーテルを入れる際に神経に障害を与える可能性もあります。

これらのようなことが実際に起きることはきわめて稀です。私たちは、このようなことが起きないよう常に万全の注意を払っています。
また、問題があればすぐに対応できるよう常に準備をしていますので、安心して無痛分娩を受けていただいてよいと考えています。

まとめ

無痛分娩で陣痛の痛みが楽になったら、定期的に訪れる子宮収縮の山を感じながら体力を蓄えましょう。そしていざ分娩の時は、両足に力を入れて踏ん張りながらしっかりとお腹に力を入れて赤ちゃんを押し出してあげてください。周りの助産師もその都度アドバイスいたします。