感染症情報「水痘」
概要SUMMARY
水痘は、水痘帯状疱疹ウイルスによって引き起こされる発疹性の疾患のことで、一般に「みずぼうそう」の名称で知られています。小児によく見られる疾患です。成人での水痘も稀に見られますが、成人に水痘が発症した場合、水痘そのものが重症化するリスクが高いと言われています1)。有効な予防法はワクチンの定期接種で、2014年から導入されました。
水痘は5類感染症定点把握疾患に指定され、全国約3,000箇所の小児科定点から毎週患者数が報告されています。また、2014年9月19日から、24時間以上の入院を要した水痘症例が全数届出対象となり、他疾患で入院中に発症し、その後24時間以上入院した症例も届出対象となっています2)。
また、学校保健安全法では、第2種の感染症に定められており、すべての発疹が痂皮化するまで出席停止になりますが、病状により学校医その他の医師において感染の恐れがないと認めたときは、この限りではありません3)。
1. 微生物
2. 感染症
症状
通常は、2週間程度(10〜21日)の潜伏期間を経て発症しますが、免疫不全患者ではより長くなることがあります3)。特徴的な症状は、38℃前後の発熱と水疱などの発疹です。発疹は全身性で痒みを伴い、紅斑、水疱、膿疱から、痂皮化して治癒します。急性期には様々な進行段階の発疹が混在します3)。
水痘は主に小児期に感染します。合併症としては、皮膚の二次感染、脱水、熱性痙攣、肺炎、気管支炎、脳炎などがあります。児が感染すると一般的に軽症ですが、重症化する場合は熱性痙攣、肺炎、気管支炎等の合併症によるものです。成人期の初感染は重症化しやすく、内臓合併症として水痘肺炎が多く注意が必要です。その他水痘脳炎等の報告があります。
また、妊婦の初感染は児に先天性水痘症候群(CVS)※を生じる可能性があります。
小児期に感染した後に終生免疫を獲得しますが、水痘帯状疱疹ウイルスは神経細胞に潜伏感染し続けます。再活性化して帯状疱疹が生じることもあり、高齢者の再感染も確認されています5,6)。
※先天性水痘症候群(CVS):達遅滞を伴う種々の神経障害、四肢の頭頸部や四肢躯幹の片側性の委縮性瘢痕等の多発先天奇形です。水痘に罹患した妊婦の約2%で起こります5)。
治療等
対症療法として外用剤が使用されます。二次感染した場合は抗菌薬の投与も行われます。抗ウイルス剤 (アシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビルなど)を使用します7)。
3. 感染経路
咳やくしゃみに含まれるウイルスを吸い込むことによる空気感染や飛沫感染、水疱や粘膜の排出物に接触することによる接触感染があります。発疹出現の1〜2日前から出現後4〜5日、あるいは痂皮化するまで感染性があります3)。
4. 消毒剤感受性
エンベロープを持つウイルスで消毒薬抵抗性は比較的弱く、アルコール、次亜塩素酸ナトリウムによる不活性化が期待できます8)。
感染対策INFECTION CONTROL
感染防止対策
水痘ワクチンが2014年から定期接種になり、2回接種を行うことにより、軽症の水痘も含めて発症が予防できるようになり、水痘は減少していると考えられます。
感染対策は、標準予防策に加え空気感染予防策と通常痂皮化するまで接触感染予防策を行うことが求められます。
なお、医療従事者は、水痘の罹患暦、ワクチン接種歴を確認しておき、患者発生時の対応は免疫を持った医療従事者が行うことが望ましいと考えられます。
水痘施設内感染防止対策のポイント9,10)
患者病室 | ただちに、陰圧個室に隔離を行う 1時間あたり、新築及び改装の施設には12回、既存の施設には6回の換気を行う ドアに「空気感染予防策、接触感染予防策」を行っている表示をする |
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手指 | 目に見えて汚れがある場合には、石けんと流水による手洗い、目に見える汚れがない場合にはアルコール手指消毒剤による手指衛生を行う |
個人防護具 | 免疫を持たない医療従事者は患者病室入室時にN95マスクを着用する 患者病室入室時に手袋やガウンを着用する |
器具、物品 | 体温計、血圧計、聴診器はなどの器具は患者専用とする。使用後は消毒用エタノールで清拭する |
環境管理 | リネンは感染性リネンとして処理する ドアノブ、ベッド柵などの高頻度接触面は消毒用エタノールで清拭する |
関連リンク
- 〈厚生労働省 ホームページより〉
- 〈国立感染症研究所 感染症情報センター ホームページより〉
-
- 水痘とは https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/418-varicella-intro.html
- 水痘・帯状疱疹の動向とワクチン https://www.niid.go.jp/niid/ja/id/787-disease-based/sa/varicella/idsc/iasr-topic/8223-462t.html
- 成人水痘―妊婦の水痘などを中心に https://www.niid.go.jp/niid/ja/typhi-m/iasr-reference/2256-related-articles/related-articles-404/4010-dj4044.html
- 水痘ワクチン定期接種化後の水痘発生動向の変化 ~感染症発生動向調査より・第3報~ https://www.niid.go.jp/niid/ja/varicella-m/varicella-idwrs/7620-varicella-20171020.html
- 東京都感染症情報センター
参考資料
- 1) 厚生労働省:水痘Q&A https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/varicella/index.html
- 2) 国立感染症研究所:水痘入院例全数報告の開始と水痘ワクチン定期接種化による効果~感染症発生動向調査より~https://www.niid.go.jp/niid/ja/varicella-m/varicella-iasrs/5682-pr4241.html
- 3) 国立感染症研究所:水痘とはhttps://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/418-varicella-intro.html
- 4) CDC: Public Health Image Library (PHIL)https://phil.cdc.gov/Details.aspx?pid=1878
- 5) 国立感染症研究所:成人水痘―妊婦の水痘などを中心にhttps://www.niid.go.jp/niid/ja/typhi-m/iasr-reference/2256-related-articles/related-articles-404/4010-dj4044.html
- 6) 吉田眞一、他編:戸田新細菌学,改訂34版.南山堂,2013,579-582
- 7) 東京都感染症情報センター:水痘http://idsc.tokyo-eiken.go.jp/diseases/chickenpox/
- 8) 厚生労働省:第27回厚生科学審議会感染症部会(ペーパーレス)資料7https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_02628.html
- 9) 小林信一:小児科診療2006;12(67):1875-8.【IC10907】
- 10) CDC:2007 Guideline for Isolation Precautions: Preventing Transmission of Infectious Agents in Healthcare Settingshttps://www.cdc.gov/infectioncontrol/guidelines/isolation/index.html
2022年1月