感染症情報
麻疹
概要
麻疹ウイルスによる急性熱性発疹性の感染症で、一般に「はしか」の名称で知られています。
感染力が極めて強く、かつてはすべての子供が罹患する感染症でしたが、ワクチンの導入により患者数は大きく減少しています1)。
現在では、海外からの旅行者により持ち込まれ、散発的に流行します。
なお、麻疹は、感染症法に基づく感染症発生動向調査による全数把握疾患(5類感染症)に指定され、麻疹と臨床診断した時点ですべての医師に速やかに管轄の保健所へ届け出ることが義務づけられています2)。
また、学校保健安全法では発疹に伴う発熱が解熱した後3日経過するまで出席停止になり、病状によっては、さらに長期になる場合もあります2)。
1. 微生物

(CDCホームページより3))
原因ウイルスの麻疹ウイルス(Measles virus)はパラミクソウイルス科モルビリウイルス属で、直径150~250nmのエンベロープをもつRNAウイルスです1)。
麻疹ウイルスは熱、紫外線、酸、エーテル等で容易に不活化され、空気中や物体表面での生存時間は短いとされています2)。
2. 感染症
症状
約10~12日間の潜伏期を経て発症し、症状は前駆期(カタル期:2~4日間)、発疹期(3~5日間)、回復期へと移行します2)。
合併症が多い疾患でもあり、肺炎、脳炎、中耳炎の合併が多く、二大死因は肺炎と脳炎です。
頻度は高くありませんが、麻疹にかかった数年後に発症し、最終的な予後が非常に悪い亜急性硬化性全脳炎(SSPE)と呼ばれる中枢神経疾患を発症することもあります。
その他、喉頭炎、喉頭気管支炎、心筋炎なども合併することがあります。
| カタル期 | 38℃前後の発熱が2~4日間続き、上気道炎症状(咳、鼻漏、咽頭熱)、結膜炎症状(結膜充血、眼脂、羞明)が出現、増強します。 コプリック斑とよばれる直径1mm程度の白色斑が頬粘膜にみられます。 |
|---|---|
| 発疹期 | カタル期の発熱がいったん1℃程度下降した後、半日ほどで再び39.5℃以上の高熱、発疹が出現します。 発疹は体幹や顔面から目立ちはじめ、後に四肢の末梢にまで及びます。発疹が全身に広がるまで、発熱(39.5℃以上)が3~4日間続き、カタル症状は憎悪し、特有の麻疹様顔貌を呈します。 |
| 回復期 | 解熱し、全身状態、活力が改善してきます。発疹は退色し、黒ずんだ色素沈着がしばらく残り、僅かの糠様落屑があります。カタル症状も次第に軽快します。 |
治療等
対症療法が中心となります。高熱と飲水量の減少により、脱水を伴うことが多く、輸液が必要となることがあります。
中耳炎、肺炎など細菌性の合併症を起こした場合には抗菌薬の投与が必要となる場合もあります2)。
また、麻疹患者接触後72時間以内の麻疹含有ワクチン投与、6日以内の免疫グロブリン製剤の筋肉内投与により、発症予防や症状の軽減を行う方法があります4,5)。
3. 感染経路
飛沫核による空気感染、感染者の鼻や喉の分泌物との飛沫・接触感染と多彩であり、その感染力は非常に強いと言われています。免疫を持っていない人が感染するとほぼ100%発症し、一度感染して発症すると一生免疫が持続すると言われています5)。
4. 消毒剤感受性
エンベロープをもつウイルスで消毒薬感受性は高く、低水準消毒薬でも有効との報告があります6)。
感染対策
感染防止対策
予防にはワクチンが勧められています。ワクチン1回接種による免疫獲得率は93~95%以上、2回接種による免疫獲得率は97~99%以上と報告されています2)。
感染対策は、標準予防策に加え空気感染予防策を行うことが求められます。さらに、麻疹ウイルスは、免疫を担う全身のリンパ組織を中心に増殖し、一過性に強い免疫機能抑制状態を生じるため、同時に合併した別の細菌やウイルスに対する感染対策も行うことが勧められます。
なお、医療機関を受診する外来患者、入院患者と接触する可能性がある全ての職員・実習生に対する対応、病院感染対策については国立感染症研究所より「医療機関での麻疹対応ガイドライン(第七版)」が公表されており、基本的な内容としては、次の通りになります7)。
- 平常時の対応として、全職員および実習生は麻疹罹患歴と麻疹含有ワクチン接種歴を確認しておき、未確認者・抗体非保有者は麻疹含有ワクチンを接種することが最も重要である
- 患者発生時は、外来・病棟ともに速やかに空気感染対策が可能な個室管理体制を行い、麻疹に免疫を持った者が患者の対応にあたる
- 免疫を持っていない可能性がある全職員および実習生が曝露した可能性がある場合、緊急ワクチン接種あるいは免疫グロブリン製剤投与による発症予防を行うとともに、麻疹の発症を想定した対策として、曝露から5 日~3 週間(免疫グロブリン製剤を投与した場合は4 週間)までの間は、麻疹感受性者との接触がない勤務体制に変更する
麻疹施設内感染防止対策のポイント
| 患者病室 | ただちに個室隔離を行う(陰圧、6~12回/時以上の換気)8)。 一般病棟での個室隔離の場合:可能なら陰圧空調、患者の入室している部屋の空気が流出しないよう、病室入口のドアは閉めておく。ドアに「面会制限」の表示や「空気予防策」をしている表示をする8)。 |
|---|---|
| 手指 | 目に見える汚れがある場合には、石けんと流水による手洗い、目に見える汚れがない場合にはアルコール手指消毒薬による手指衛生を行う。 |
| マスク | 免疫がない医療従事者が対応する場合にはN95マスク、あるいはそれ以上の性能のものを着用する。免疫を持った医療従事者は他の疾患の可能性を考慮し、サージカルマスクを着用する4)。 |
| 器具、物品 | 体温計、血圧計、聴診器は患者専用とする9)。 |
| 環境管理 |
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参考資料
- 1)柳 雄介、他編:戸田新細菌学,改訂35版.南山堂,2025,725-40.
- 2)国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト:麻しん(詳細版)
をもとに作成
https://id-info.jihs.go.jp/diseases/ma/measles/010/index.html - 3)CDC:Public Health Image Library (PHIL)
https://wwwn.cdc.gov/PHIL/Details.aspx?pid=10707 - 4)国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト:麻しんQ&A〔麻疹(ましん、はしか)について〕
をもとに作成
https://id-info.jihs.go.jp/relevant/vaccine/measles/030/qa.html - 5)厚生労働省:麻しん
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/measles/index.html - 6) 川名林治、他:臨床とウイルス1998;26(5):371-85.【IC08697】
- 7)医療機関での麻疹対応ガイドライン(第七版)
https://id-info.jihs.go.jp/manuals/guidelines/measles/medical_201805.pdf - 8) 藤田次郎:院内感染対策パーフェクトマニュアル.学習研究社,2008,98-102. 【IC17060】
- 9) 小林信一:小児科診療2006;12(67):1875-8.【IC10907】
2026年3月改訂