感染症情報「ESBL産生菌」
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感染症情報
ESBL産生菌
概要SUMMARY
1. 微生物

(CDCホームページより1))
ESBL産生菌は、特定の細菌の名前ではなく、基質特異性拡張型βラクタマーゼ(Extended spectrum β-lactamases:ESBL)とよばれる抗生物質を分解する酵素を産生する(=抗生物質に対して耐性を持つ)細菌のことを指し、主に大腸菌や肺炎桿菌などの腸内細菌科細菌が含まれます。β-ラクタマーゼ※は基質特異性(分解できる抗生物質)によって大きく分けて、ペニシリナーゼ、セファロスポリナーゼ、カルバペネマーゼに分類することができます。
一般に、ペニシリナーゼはペニシリン系薬のみを、セファロスポリナーゼはペニシリン系とセファロスポリン系を、カルバペネマーゼはすべてのβ-ラクタム系薬を分解できます。2)
ESBLは、元々はペニシリン系薬のみを分解する酵素でしたが、変異により第3世代セファロスポリン系薬まで分解可能になった酵素です。そのため、ESBL産生菌はペニシリン系だけではなくセファロスポリン系抗生物質に対しても耐性を示す細菌であると言えます。また、ESBL産生遺伝子は、プラスミド上に存在しているため、接合という特殊な遺伝情報交換により同一菌種間だけでなく菌種を越えて伝播すると考えられているため、今後も増加する可能性があります。
※β-ラクタマーゼ:β-ラクタム環構造を基質として認識して開裂させる酵素
2. 感染症
症状
ESBL産生菌の種類によりますが、症状としては、尿路感染症、胆道系感染症、肺炎などが見られます。
治療等
カルバペネム系抗菌薬が使用されています。最近では、ピペラシリン・タゾバクタムやセファマイシン系抗菌薬によって治療可能であるというエビデンスが少しずつ集まってきています3)。ESBL産生菌を保菌しているだけで症状が出ないこともあり、このように無症状で保菌しているだけの場合は治療の対象にはなりません。
3. 感染経路
ESBL産生菌は接触感染で感染すると考えられています。ESBL産生菌は多くの場合、腸内に生息している細菌ですので、おむつ交換時などで感染することがあります。また、尿道カテーテル留置患者管理でも注意が必要です。
4. 消毒剤感受性
ESBL産生菌は、抗生物質への耐性は強くなっていますが、消毒剤感受性は抗菌薬耐性を獲得する前の菌種と変わらず、アルコール等通常用いられる消毒薬が有効です4)。
感染対策INFECTION CONTROL
感染防止対策
ESBL産生菌を含む薬剤耐性菌は薬剤耐性スクリーニング検査を行わない限り、誰が保菌しているかは判明せず、標準予防策の考え方が大切です。また、接触感染しますので、標準予防策に加えて接触予防策を行います。
ESBL産生菌施設内感染防止対策のポイント4~6)
手指 | 目に見えて汚れがある場合には、石けんと流水による手洗い、目に見える汚れがない場合にはアルコール手指消毒剤による手指衛生を行います。 |
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おむつ交換 | おむつ交換の際は排泄物に直接触れなくても必ず使い捨て手袋とガウンを着用します。手袋を外した後は手指衛生を行います。 |
環境 | ドアノブなどの高頻度接触面は消毒用エタノールを使用します。 |
患者管理 | 個室が利用できる場合は、多剤耐性菌の保菌または感染が判明しているか疑われる患者に、それらの病室を優先的に割り当てます。伝播を促進するかもしれない状況にある患者は最優先とします。個室管理が難しい場合は、同じ多剤耐性菌の患者を同室または同じ患者ケア区域に集団隔離します。 |
関連リンク
- 〈厚生労働省 ホームページより〉
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「高齢者介護施設における感染対策マニュアル改訂版(2019年3月)」
https://www.mhlw.go.jp/content/000500646.pdf
- 「薬剤耐性(AMR)対策について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000120172.html
-
「高齢者介護施設における感染対策マニュアル改訂版(2019年3月)」
- 〈国立感染症研究所 感染症情報センター ホームページより〉
-
-
「薬剤耐性菌感染症」
https://www.niid.go.jp/niid/ja/route/dr.html
-
「薬剤耐性菌感染症」
- AMR臨床リファレンスセンター
-
-
「多剤耐性菌の話」
https://amr.ncgm.go.jp/medics/2-1-3.html
-
「多剤耐性菌の話」
- CDC
-
-
「2007 Guideline for Isolation Precautions: Preventing Transmission of Infectious Agents in Healthcare Settings」
https://www.cdc.gov/infectioncontrol/guidelines/isolation/index.html
-
「Management of Multidrug-Resistant Organisms in Healthcare Settings (2006)」
https://www.cdc.gov/infectioncontrol/guidelines/mdro/index.html
-
「2007 Guideline for Isolation Precautions: Preventing Transmission of Infectious Agents in Healthcare Settings」
参考資料
- 1) CDC: Public Health Image Library (PHIL)
https://phil.cdc.gov/Details.aspx?pid=23242
- 2) 染方史郎:染方史郎の楽しく覚えず好きになる 感じる細菌学×抗菌薬.じほう,2020,p.55
- 3) AMR臨床リファレンスセンター:薬剤耐性菌について-各種耐性菌の話-
https://amr.ncgm.go.jp/medics/2-1-3.html
- 4) 厚生労働省:高齢者介護施設における感染対策マニュアル改訂版(2019年3月)
https://www.mhlw.go.jp/content/000500646.pdf
- 5) CDC: 2007 Guideline for Isolation Precautions: Preventing Transmission of Infectious Agents in Healthcare Settings
https://www.cdc.gov/infectioncontrol/guidelines/isolation/index.html
- 6) CDC: Management of Multidrug-Resistant Organisms in Healthcare Settings (2006)
https://www.cdc.gov/infectioncontrol/guidelines/mdro/index.html
2024年2月