丸石製薬株式会社

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医療関係者向情報サイト 医療ナレッジ 消毒NAVI リネン

現場でお困りの消毒方法について、尾家 重治先生(山陽小野田市立 山口東京理科大学 薬学部 教授)に解説していただきました。
なお、器具・物品や消毒剤等の取り扱いにつきましては、各製品の取扱説明書等をご確認ください。

リネンの消毒方法

熱水による消毒

リネンの消毒には、熱水が適しています1-3)。電気式や蒸気(スチーム)式の熱水洗濯機を用いて洗濯を行えば、安全かつ確実に消毒が行えます(図1)。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)や腸管出血性大腸菌(O-157など)などの細菌汚染では70℃・10分間、B型肝炎ウイルスやノロウイルスなどのウイルス汚染では80℃・10分間などの条件で洗濯します4-6)

なお、MRSAやO-157などの細菌汚染を受けたリネンに対しては、70℃・1分間や80℃・10秒間などの熱水浸漬のみでも消毒可能です7,8)。 ただし、この熱水浸漬法では,熱傷を負う危険性がありますし、蛋白凝固防止の観点から前もって付着血液などを洗い流しておく必要があります。


図1. 熱水洗濯機
(上:電気式,下:蒸気式)リネン消毒が確実に行える。

消毒薬による消毒

熱水が利用できない場合には、消毒薬による消毒を行います。この際の第一選択消毒薬は次亜塩素酸ナトリウムで、第二選択消毒薬はベンザルコニウム塩化物などです。

①次亜塩素酸ナトリウム
色・柄物でないリネンに対しては、次亜塩素酸ナトリウムが適しています。なぜなら、本薬は安価で、かつ乾燥時に塩素ガスとして蒸発するため生地に残らないからです。また、抗菌スペクトルが広く、MRSAなどの細菌のみならずウイルスにも有効だからです。すすぎの段階で0.02% (200ppm)液へ5分間以上浸漬して、その後に再度すすぎを行います。

なお、洗濯前に消毒を行いたい場合には、水洗い後に0.1%(1,000ppm)液へ30分間浸漬して、その後に洗濯を行います。ただし、この場合でもすすぎ段階で0.02%液での消毒を行う必要があります。

②ベンザルコニウム塩化物、ベンゼトニウム塩化物
MRSAやO-157などの一般細菌汚染の色・柄物リネンの消毒には、ベンザルコニウム塩化物やベンゼトニウム塩化物が適しています。0.1%液への30分間浸漬を行います。しかし、ノロウイルスなどのウイルスに対しては、ベンザルコニウム塩化物やベンゼトニウム塩化物の消毒効果は弱いです。

なお、両性界面活性剤やクロルヘキシジンは黄ばみの原因になるので、これらの消毒薬でのリネン消毒は避けてください。

共用リネンに対しては・・・

病院で使用した共用リネンに対しては、熱水や消毒薬などで消毒すべきことが義務づけられています。したがって、委託(洗濯)業者へ出すリネンを前もって病院内で消毒しておく必要性はありません。すなわち、リネンの洗濯を外部委託する場合には、使用後にそのまま洗濯業者へ出して、洗濯業者で熱水などによる消毒を行うのが望ましいです。

ただし、MRSAやサルモネラなどの感染患者や、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスおよびHIVなどのキャリア患者が使用したリネン類の場合には、水溶性ランドリーバッグやビニール袋に入れて、「感染症」と表示して洗濯業者へ渡す必要があります。取り扱い者の危険防止のためです。

なお、腸管出血性大腸菌感染症、コレラ、細菌性赤痢および腸チフス・パラチフスなどの3類感染症患者が使用したリネン類には、前もって病院内で消毒を行っておく必要があります。

リネンが細菌汚染を受けると・・・

清拭タオルがセレウス菌(Bacillus cereus)汚染を受けると、血流感染の原因になることが分っています9,10)。一方、洗濯後のタオルなどがセレウス菌などにより汚染を受けていることは稀ではありません11)。その実例を図2に示しました。清拭タオルの微生物汚染の原因として、クリーニング工場での再利用水(リサイクル水)の処理が不適切なことや、不十分な洗濯などが推定されます。

図2. 洗濯後のタオルの細菌汚染
左:リサイクル水が原因と推定された雑菌汚染例
右:熱水消毒を行っているものの不十分な洗濯が原因と推定されたセレウス菌汚染例

参考資料

  • 1) Barrie D: How hospital linen and laundry services are provided. J Hosp Infect, 27: 219-35, 1994【IC01280】
  • 2) Ayliffe GAJ, et al: Control of Hospital Infection. 4th ed. London, 2000, Arnold.
  • 3) Department of health and social security HN (87) 1: Decontamination of equipment, linen or other surfaces contaminated with Hepatitis B or human immunodeficiency virus. DHSS
  • 4) Russell AD, et al: Principles and practice of disinfection, preservation, and steriliztion, 3rd ed. Blackwell Scientific Publications. 1999
  • 5) Ayliffe GAJ, et al: Hospital-Acquired Infection: Principles and Prevention, Butterworth-Heinemann. 1999
  • 6) Cannon JL, et al: Surrogates for the study of norovirus stability and inactivation in the environment: a comparison of murine norovirus and feline calicivirus. J Food Prot, 69: 2761-5, 2006
  • 7) 尾家重治, 他:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に対する温水の効果. 環境感染, 8: 11-4, 1993【IC01590】
  • 8) Oie S, et al: Efficacy of disinfectants and heat against Escherichia coli O157:H7. Microbios, 98: 7-14, 1999【IC25439】
  • 9) Hernaiz C, et al: Nosocomial bacteremia and catheter infection by Bacillus cereus in an immunocompetent patient. Clin Microbiol Infect, 9: 973-5, 2003
  • 10) Dohmae S, et al: Bacillus cereus nosocomial infection from reused towels in Japan. J Hosp Infect, 69: 361-7, 2008
  • 11) Oie S, et al: Cleanliness of Linen and Clothing Items Professionally Laundered or Dry-Cleaned. Jpn J Infect Dis, 69: 75-76, 2016