緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)
■細菌学的特徴
モンスター系の代表と言えば、「グリーンモンスター」こと、緑膿菌です。ピオベルジン(蛍光のような緑)やピオシアニン(青緑)と呼ばれる病原因子を産生するため、膿が緑色になります。ちなみに、属名のPはサイレントで、シュードモナスと読みます。
細菌学的には、グラム陰性桿菌、ブドウ糖
非
発酵菌と呼ばれる細菌に含まれます。発酵ができませんので、主に、酸素を使ってブドウ糖を燃やすことでエネルギーを作り出しています*。したがって、ほぼ好気性と同義です。この特徴は、生息する環境にも影響します。腸の中は既に大腸菌等の先住民が酸素を使い果たしているので、嫌気状態になっており、本来緑膿菌の棲み家としては不向きです。一方、飢餓に耐えるため、あまり栄養のない環境でも生息できます。また、湿ったところが好み。したがって、湿気の多いシンクやトイレ等の水周り環境に潜伏しています。感染症対策上、環境整備が重要な理由です。環境中で生き抜く上で重要なことは、他の微生物との縄張り争いです。
ペニシリンが元々ペニシリウムというカビ(真菌)が産生していることからもわかるように、環境では、カビが菌の増殖を抑制する物質を産生しています。緑膿菌は環境に適応するために、ペニシリンなどの抗菌物質に抵抗する能力を獲得したのです。
また、緑膿菌をただの「単細胞」と侮ってはいけません。緑膿菌は寄り集まって、あたかも多細胞生物であるかのようにふるまうことがあります。ただでさえ防御力の高い緑膿菌ですが、合体することでさらに強化されます。かの有名な「バイオフィルム」です(図1)。
細菌が寄り集まって、多細胞生物のようにふるまいます。
バイオフィルムができることでより難治化します。
バイオフィルムを形成すると除去が難しく、耐性菌発生の母地になっていることが指摘されています。しかも、抗菌薬が中まで浸透しにくくなるため、抗菌薬の効力が発揮できなくなります。さらに、定数感知機構(quorum sensing)という仕組みによって、攻撃力もアップします。quorumとは、多数決を取るとき等の一定数のことで、この定数を感知するシステムです。アシルホモセリンラクトン(AHL)という物質を産生し、お互いにコミュニケーションを取っています。AHLの濃度を感知することによって、仲間の数を把握します。AHLはポジティブフィードバックによって指数関数的に増加し、AHLがある閾値を越えた時点で、病原因子の遺伝子発現のスイッチが入るという仕掛けになっています。
*ただし、厳密には、硝酸還元という方法(嫌気呼吸と呼ばれる)でもエネルギーを作り出すことができます。
■臨床的特徴
基本的には、日和見感染の病原体で、特に、抗菌薬使用中の菌交代症が典型的な感染症です。モンスター系に分類したのは、抗菌薬に抵抗性を示すということもありますが、ブドウ球菌などの庶民系に比べて「レアキャラ」である、という点も挙げられます。もし、町内にモンスターが出現したら大変な事態であることは想像に難くありませんよね(図2)。ただし、近年の医療の高度化等によって、レアキャラの出現が増えてきていることが問題になっています。ゲームでは珍しいともてはやされますが、こちらは登場してほしくないレアキャラです。
緑膿菌は元々レアキャラなので、町内にモンスターが出現したようなものだと考えるといいでしょう。
通常のペニシリン系薬などに一次耐性を示すのに加えて、耐性を獲得する能力も高いので、複数の抗菌薬に抵抗性を示すこともあります。
緑膿菌が感染しやすい条件を、語呂合わせで考えてみました。PseudomonasのMONASを使って、
M:Moisture(湿潤環境)
O:Oxygen(酸素), Opportunistic(日和見主義)
N:No immunity(免疫低下)
A:Antibiotics(抗菌薬)
S:Surface(表面)
です。これらの条件を整理して見てみましょう。
●抗菌薬による常在細菌叢の破綻+免疫低下が契機になる
大腸菌や嫌気性菌などの常在細菌叢は、いわば本来ヒトの中に棲みついている先住民です。常在細菌叢はヒトから栄養や快適な環境を享受するだけではなく、win-winの関係で、よそ者の侵入を防いでくれています。たとえば、大腸菌などの酸素を使ってエネルギーを得る常在細菌は、緑膿菌が大好きな酸素を使い果たしてしまうことで緑膿菌のつけいる隙を与えません。大腸菌は、好気と嫌気の両刀使いなので、酸素を使い果たしても生きていけます。このような理由で、もともと免疫系は、常在菌に対して寛容となっています。一方、緑膿菌などのよそ者には容赦ありません。緑膿菌は、元々、環境中で十分に満足しているわけですから、わざわざ危険を冒してヒトの体に侵入することはありません。ところが、常在細菌叢の破綻+免疫低下(特に好中球減少)という条件がそろうことで、感染が成立しやすくなります。
●創傷や体内に留置される異物は定着の場を提供する
熱傷後の緑膿菌感染は以前からよく知られています。熱傷部も、局所的に免疫がおよびにくくなっていることに加えて、創傷部感染の治療のために広域抗菌薬を使用することがあり、結果として、緑膿菌のような耐性菌が選択されることになります。また、カテーテルや気管内チューブなどの生体内人工物には免疫が及びにくいため、緑膿菌の生息に適した環境を提供することになります。気管内チューブの中は、適度な温度と湿度が保たれており、緑膿菌が生息するのにぴったりの環境となっています。COPDなどの慢性肺疾患でも同じような理由で、肺の荒廃が進むと緑膿菌の感染を起こしやすくなります。エタノールや次亜塩素酸ナトリウム等の消毒薬には感受性ですが、洗浄や消毒が行き届きにくい部分から分離されることがあります。洗浄不十分な内視鏡等からの多剤耐性緑膿菌(MDRP)の分離が報告されています。
■治療
緑膿菌は、通常のペニシリン系薬に対して一次耐性を示しますが、抗緑膿菌作用のある抗菌薬として、ピペラシリン、タゾバクタム/ピペラシリン、セフタジジム、第四世代セファロスポリン系薬、カルバペネム系薬、キノロン系薬、アミカシンなどが知られています。セフタジジムは、第三世代セファロスポリン系薬ですが、同じ第三世代でもセフトリアキソンには抗緑膿菌作用がないというのがポイントです。
以上の抗菌薬の多くは、いわゆる「広域抗菌薬」です。モンスターを倒すために、先住民が犠牲になっていることを理解した上で使用する必要があります(図3、表1)。
モンスター(緑膿菌)だけではなく、先住民(常在細菌)を犠牲にするということを意味します。
また、近年、タゾバクタム/セフトロザンという世代に分類されないセフェム系薬が登場しました。さらに、多剤耐性を示す場合には、コリスチンも考慮します。
緑膿菌以外のモンスターについてもご紹介しておきます。アシネトバクターAcinetobacterとステノトロホモナスStenotrophomonas maltophiliaです(図4)。これらを勝手にモンスターズ・ビッグ3と呼んでいます。
臨床的に問題となりやすいモンスターたち
アシネトバクターは、「動く(cineto)」の否定形“a+cineto-”と「細菌」を意味する“-bacter”の合成による属名で、鞭毛を欠き、運動性がない細菌であることに由来します。アシネトバクターもモンスターのキャラクターですが、イラストで尻尾を描いていないのはそのような理由によります。ちなみに、緑膿菌は、一本の尻尾(単毛性鞭毛)を持っていますので、イラストでもきちんと表現しています(ドヤ顔)。アシネトバクターは、92種が知られており、臨床的にも様々な菌種が分離されますが、最も多いのはA. baumanniiで、多剤耐性化も問題となっています。日本での報告はまだ少数ですが、欧州の一部では緑膿菌よりも深刻な問題となっています。
maltophiliaの種名は、マルトースをブドウ糖よりも早く強く好気的に分解し利用することに由来します。maltoseのmaltoと好きという意味の-philiaでmaltophiliaです。アシネトバクター以上にレアですが、カルバペネム系薬に自然耐性を示す手ごわい相手です。他の日和見感染症と同様、菌交代症として分離され、菌血症や出血性肺炎の原因となることが知られています。元々宿主の状態が悪い場合も多く、予後不良です。特に出血性肺炎の進行は急速で、致命率も極めて高いことが報告されています。
