丸石製薬株式会社

製品・使用期限
検索

製品一覧

製品名とロット番号(完全一致)から製品の使用期限を検索できます。

使用期限検索

医療関係者の皆さまへ

このウェブサイトは、日本国内の医療関係者(医師、薬剤師、看護師など)を対象に、
医療用医薬品などを適正にご使用いただくための情報を提供しています。
一般の方および日本国外の医療関係者に対する情報提供を目的としたものではありませんのでご了承ください。

医療関係者でない方はこちらからコーポレートサイトをご覧ください。

コンテンツのご利用には、一部medパスアカウントが必要なものがあります。
IDをお持ちでない方は、medパスでの新規登録をお願いします。なお、登録できる方は日本国内の医療関係者に限らせていただきます。
medパスとは、1つのID・パスワードで複数の医療系サイトがご利用できるサービスです。詳しくはこちら
なお、medパスでのご本人様の確認が終わるまで、一部のコンテンツをご利用いただけない場合やご提供内容が変わる場合があります。詳しくはこちら

医療関係者でmedパスアカウントをお持ちでない方は、対象の職種を以下よりお選びください。

目指せ!手指衛生の実践力アップ! 目指せ!手指衛生の実践力アップ!
座長

美島 路恵 先生

東京慈恵会医科大学附属病院
感染管理認定看護師
感染対策部 副部長

演者

佐藤 浩二 先生

医療法人豊田会刈谷豊田総合病院
感染症看護専門看護師
感染管理認定看護師 看護師長

 手指衛生は医療関連感染の予防において最も有効な対策であり、その遵守率向上は医療環境における感染対策の最重要課題です。しかし、遵守率向上への取り組みは人の行動変容を求める介入である以上、人が本来持つ行動特性を深く理解したうえで対策を講じなければ、期待する成果を得ることは困難です。
 本セミナーでは、刈谷豊田総合病院の佐藤浩二先生に、WHOの「手指衛生多角的戦略」や「手指衛生自己評価フレームワーク(HHSAF)」を効果的に活用するうえでおさえておきたい行動経済学的アプローチの重要性について、実践経験を交えてご講演いただきました。

手指衛生遵守率を向上させる
多角的戦略

1.手指衛生と医療関連感染
 1980年~2013年のシステマティックレビューによると、手指衛生遵守率の向上は医療関連感染(HAI)およびMRSAなどの多剤耐性菌の減少と関連していることが報告されています1)。また、フィンランドの研究では、病院スタッフの手指衛生遵守率が高いほどHAIは減少するという負の相関関係が認められています(Pearsonの相関係数r = ‒0.48、P<0.001)2)。このように、手指衛生遵守率の向上は病原体伝播の遮断とHAI抑制において重要な役割を果たしており、感染対策における最重要課題として位置づけられています。

2.WHOの手指衛生多角的戦略と手指衛生自己評価フレームワーク
 手指衛生遵守率向上のための有効な手法として、WHOの手指衛生多角的戦略があります。この戦略は「5つの要素」(物品設備/研修教育/測定評価/現場掲示/組織文化)、「5つの瞬間」(病室で実施すべき手指衛生の5つの場面)、「5つのステップ」(準備決意/事前評価/実施結果/事後評価/計画立案)という3本柱で構成されており3)、これらを連動させて展開していきます。
 多角的戦略の成果は手指衛生自己評価フレームワーク(HHSAF)で評価されます。HHSAFは5つの構成要素と各要素に属する27の指標から構成されています。各指標に対して、「はい/いいえ(複数回答可)」で回答し、回答ごとに設定された配点に従ってスコア化(500点満点)します。これにより、施設における手指衛生の実践と推進の水準を4段階(上級/中程度/必要最小限/不十分)で判定する評価ツールです4)

3.手指衛生多角的戦略の成果
 手指衛生多角的戦略を5年間継続した研究報告5)によると、アルコール手指消毒薬の1,000患者あたりの使用量は初年度の10.4Lから5年後には34.4Lへと増加しました。同時に、HHSAFスコアも267.5点から445点と大幅な向上を示し、年間のアルコール手指消毒薬消費量とHHSAFスコアの間には強い正の相関関係が認められました(Pearsonの相関係数r =0.971、P<0.01)。
 また、医療従事者の行動変容を促すには、単一の介入よりも複数の戦略を組み合わせたアプローチが有効であることが報告されています2)。前述の手指衛生多角的戦略の成果は、複数の介入手法を組み合わせることによる相乗効果を実証した好例です。

当院における手指衛生多角的
戦略の取り組み

1.多角的戦略は「5つの要素」をバランスよく
 私は2年前に系列病院へ転勤し、異動後間もなく手指衛生多角的戦略に取り組みました。当初は一人での活動でしたが、手指衛生の冊子作成・配布、院内各所への手指衛生啓発ポスターの掲示、直接観察による現場への積極的介入など、HHSAFスコア向上を目指した多岐にわたる活動を実施しました(図1)。その結果、初年度177.5点であったHHSAFスコアは1年間で340点とほぼ倍増しました。
 しかし、1患者あたりの手指衛生回数の向上は期待を下回る結果でした。手指衛生多角的戦略の「5つの要素」をレーダーチャートで分析すると、組織文化の項目スコアが著しく低く、要素間でアンバランスな状況が明らかになりました(図2)。この経験から「5つの要素」への均衡のとれたアプローチが大切であることを痛感しました。

多角的戦略は「5つの要素」をバランスよく 手指衛生遵守率向上の取り組み

 しかし、1患者あたりの手指衛生回数の向上は期待を下回る結果でした。手指衛生多角的戦略の「5つの要素」をレーダーチャートで分析すると、組織文化の項目スコアが著しく低く、要素間でアンバランスな状況が明らかになりました(図2)。この経験から「5つの要素」への均衡のとれたアプローチが大切であることを痛感しました。

HHSAFスコアによる手指衛生の評価

2.多角的戦略には手指衛生指導者の牽引が不可欠
 手指衛生多角的戦略を成功させるためには、特別な訓練を受けた手指衛生トレーナーが施設内に必要です。手指衛生には、TTT(Train the Trainers)と呼ばれる手指衛生・感染予防管理の指導者育成トレーニングがあります。TTT in hand hygiene ‒Japanでは、手指衛生のベストプラクティス、多角的戦略の実践方法、行動変容理論、最新知見に関する講義や動画を用いた「5つの瞬間」の提示、HHSAFに関するディスカッションなど、座学とハンズオンを効果的に組み合わせたプログラムを提供しています。
 私自身も本研修を受講しましたが、参加者からは高い評価を得ており6)、手指衛生指導者の養成は手指衛生多角的戦略の促進において重要な役割を果たすことが期待されます。

3.ポスターコンクール -全職員参加型のしくみづくり
 当初の取り組みで組織文化へのアプローチが不足していた経験を踏まえ、ポスターコンクールを企画しました。各部署のスタッフがポスターを作成し、全職員による投票形式で評価する全員参加型としました(図3)。さらに医療安全部門と連携し、川柳大会も開催しました。感染対策や医療安全をテーマとした川柳を職員・患者さんを問わず広く募集し、作品を公開して投票してもらうなど、組織文化の醸成に向けた多面的な取り組みを展開しました。

全職員参加型のポスターコンクールの例 全職員参加型のポスターコンクールの例

行動のしくみを踏まえた
手指衛生へのアプローチ

1.行動経済学の視点で見る
 手指衛生行動を分析する際、「人は必ずしも合理的に行動するわけではない」という視点を持つことが重要です。これは「行動経済学」の基本的な考え方であり、「人は直感や感情による非合理的な判断に基づいて行動する」ことを前提としています7)。この視点は、自施設職員の手指衛生行動に効果的に働きかけるために不可欠な視点です。

2.非合理な行動を生む影響因子
 人を非合理的な行動に導く因子として、現状維持バイアス、損失回避、確証バイアス、選択過剰負荷、情報過剰負荷が挙げられます7)。適切な行動変容を促すためには、これらの因子を理解し、それらを考慮した対策を講じることが重要です。

現状維持バイアス:現状を変更した方が良い場合でも、変化を避けて現状にとどまろうとする傾向
損失回避:利得よりも損失を大きく評価する心理的特性であり、損失を回避する行動を優先すること
確証バイアス:自分の意見や結論を支持する情報のみを選択的に受け入れる傾向
選択過剰負荷:選択肢が過多になると、意思決定が困難になる現象
情報過剰負荷:情報量が処理能力を超えると思考が停止し、論理的判断ではなく経験則や直感に依存した意思決定を行うこと

 これらに加えて重要な因子が「現在バイアス」です。人は効用の価値を現在に近いほど高く評価し、将来になるほど低く評価する時間的選好の特性があり、即座に得られる効用を過大評価することを「現在バイアス」と呼びます7)

3.ナッジを活用した対策づくり
◯ナッジとは
 ナッジ(nudge)は「注意を引くために肘で人を軽く押す」という英語の本来の意味から派生し、選択の自由を担保しながらも、望ましい行動を無意識のうちに選択しやすくする手法を指します。

◯利他性の活用
 当院ではアルコール手指消毒薬のボトルに「患者さんに触れる前にワンプッシュ」と記載したポップを貼付したり、アルコール手指消毒薬設置場所の床面に誘導矢印を貼ったりして行動を促しています(図4)。この取り組みは、自分のためではなく“患者さんのため”という利他性を活用したナッジの好例です。

手指衛生行動促進ナッジの例 手指衛生行動促進ナッジの例

◯社会規範
 ナッジの中で最も効果的とされるのが「社会規範」です。人は周囲の人々の行動を参照しながら自らの行動を決定しています。他の多くの人々の行動パターンが「社会規範」となり、そこから逸脱した行動をとると、人は強い損失感を覚えるとされています8)

◯デフォルト
 ナッジ戦略においてデフォルト設定は極めて重要な要素です。当院で実施した手指衛生キャンペーンのスタンプラリー大会では、参加希望者を募集する方式を採用しました(図5)。しかし、参加者数は期待を下回る結果となりました。振り返ると、デフォルトを「全員参加」に設定し、不参加希望者にのみ意思表示を求めるべきでした。この方式であれば、意思表示を煩わしく感じる人も結果的に参加することになったからです。このように参加型の取り組みでは、デフォルト設定が参加規模や効果に大きく影響することを認識しておく必要があります。

手指衛生キャンペーンのスタンプラリー大会のポスター 手指衛生キャンペーンのスタンプラリー大会のポスター

4.手指衛生取り組み宣言が大成功!
 当院の手指衛生活動において、最も効果的であったのが「手指衛生取り組み宣言」です。これは手指衛生多角的戦略と人の行動特性が相乗効果を生んだ成功事例と言えます。
 この取り組みでは、各スタッフにアルコール手指消毒薬の月間使用本数を宣言してもらい、それを記載した用紙を病棟の壁に掲示しました(図6)。スタッフが事前に宣言することで「デフォルト」は実行を前提とした設定になっています。また、同僚など身近な集団内で皆と同じ行動をとろうとする「ピア効果」が働き8)、病棟スタッフ全員が宣言に参加することで強い同調圧力が生まれました。さらに、病棟壁面に掲示された宣言は、患者さんやご家族の目にも触れるため「社会規範」も効果的に機能しました。スタッフにとって取り組むべき行動が明確に一つに絞られているため「選択過剰負荷」も回避できました。
 このように手指衛生遵守率の向上には、人の行動特性を深く理解したうえで多角的戦略を推進することが、最も効果的なアプローチであると考えられます。

壁面に提示した手指衛生の取り組み宣言 壁面に提示した手指衛生の取り組み宣言

感染管理の立場で知っておき
たい行動分析学の視点

1.行動分析学の役割
 スタッフの手指衛生行動が不十分な場合、個人の性格や能力に問題があると捉えがちですが、むしろその人が手指衛生を行わない環境的背景に注目することが重要です。これが行動分析学の基本的視点です。行動分析学では、人の行動の原因を分析する際、当人の能力や性格的特質に原因を求めるのではなく、その人を取り巻く人的・物理的環境に着目し、環境改善を通じて行動変容を促進します9)

2.行動の繰り返しにおける「強化」「弱化」「消去」
 人の行動は「きっかけ」→「行動」→「見返り」という一連の流れの中で行われており、見返りの性質によって行動の頻度が決定されます10)
 ポジティブな見返り(褒められる、満足感を得るなど)があれば、その行動は繰り返されるようになります。これを「強化」と呼びます。一方、ネガティブな見返り(叱責される、不快感を覚えるなど)があれば行動頻度は減少します。これを「弱化」と呼びます。見返りがない状態が続けば、その行動は次第に行われなくなり、これを「消去」と呼びます。
 手指衛生の継続が困難な理由は、手指衛生行動が、「褒められれば増加する(強化)」が、「褒められなければ消失する(消去)」11)という枠組みの中にあるためです。持続的な行動変容を実現するためには、どのような見返りを設定すれば手指衛生行動を強化できるかを戦略的に検討することが重要です。

3.行動を「強化」する見返りを提供するには
 手指衛生行動を「強化」する見返りを提供するには、どのような方策が有効でしょうか。そのために押さえておくべき重要なポイントが4つあります11)

  • 適切な場所にリマインダーを戦略的に配置する

  • 行動を記録し、結果を可視化する

  • 達成可能な目標を設定し、成功体験を積み重ねる

  • 目標達成時に見返りとしての報酬を与え、行動を強化する

 これらの要素を組み合わせることで、手指衛生行動の持続的な「強化」が実現できると考えられます

4.行動を習慣化させる重要な要素 -セルフコンパッションとタイニー・ハビット
 人の行動を習慣化させるうえで重要な要素として、セルフコンパッションとタイニー・ハビットがあります。セルフコンパッションとは、失敗が続くような逆境においても前向きな検討を始めるきっかけとなるような言葉を自分自身にかけることです9)。つまり、自己激励によりモチベーションを維持・向上させる手法です。
 タイニー・ハビットは、「小さな習慣」を意味し、行動形成理論に基づいています。人の「行動」は「モチベーション」「能力」「きっかけ」という3つの要素で決定され、これは「行動=モチベーション+能力+きっかけ」の公式で表されます12)。タイニー・ハビットを作るには、15秒程度で完了できる簡単な行動設定が不可欠です。
 手指衛生行動にタイニー・ハビットの公式を適用すると、例えば「カーテンに触れたら手指衛生をする」という行動の習慣化は、「手指衛生行動=セルフコンパッション(モチベーション)+15秒程度の手指衛生(実行可能な行動)+カーテンに触れる(明確なきっかけ)」となります。
 行動の習慣化は手指衛生遵守率の向上のカギとなるため、セルフコンパッションとタイニー・ハビットを戦略的に活用することで、より効果的な成果が期待できます。

まとめ
 手指衛生遵守率の向上を実現させるためには、WHOの手指衛生多角的戦略を基盤とし、人の行動特性を深く理解したうえで効果的な介入策を展開することが重要です。手指衛生遵守率が100%に到達すれば、施設内のHAIは大幅に減少することが期待されます。この目標は容易ではありませんが、感染管理に携わる私たちは「手指衛生遵守率100%」という理想の先にある「感染ゼロ」の実現を目指し、日常的に継続的な改善に取り組んでいく必要があります。

引用文献

  • 1)

    WHO. Evidence of hand hygiene to reduce transmission and infections by multidrug resistant organisms in health-care settings, 2014. https://cdn.who.int/media/docs/default-source/integrated-health-services-(ihs)/infection-prevention-and-control/mdro-literature-review.pdf?sfvrsn=88dd45c7_2(2025年9月11日閲覧)

  • 2)

    Ojanperä H, et al. Bull World Health Organ 2020; 98(7): 475-483

  • 3)

    WHO. WHO Guidelines on Hand Hygiene in Health Care: First Global Patient Safety Challenge Clean Care Is Safer Care, 2009

  • 4)

    WHO. Hand Hygiene Self-Assessment Framework 2010

  • 5)

    Suzuki Y, et al. Antimicrob Resist Infect Control 2020; 9(1): 75

  • 6)

    Saito H, et al. Antimicrob Resist Infect Control 2023; 12(1): 56

  • 7)

    阿部誠監. サクッとわかるビジネス教養 行動経済学. 新星出版社, 2021

  • 8)

    大竹文雄. あなたを変える行動経済学. 東京書籍, 2022

  • 9)

    竹内康二. めんどくさがりの自分を予定通りに動かす科学的方法. ワニブックス, 2023

  • 10)

    石井遼介. 心理的安全性の作り方. 日本能率協会マネジメントセンター, 2020

  • 11)

    島宗理. リーダーのための行動分析学入門. 日本実業出版社, 2015

  • 12)

    BJ フォッグ著, 須川綾子訳. 習慣超大全-スタンフォード行動デザイン研究所の自分を変える方法. ダイヤモンド社, 2021

2025年10月作成TP