感染症情報「風疹」
概要SUMMARY
風疹は、風疹ウイルスの感染によっておこる発疹、発熱、リンパ節腫脹などを特徴とする急性発疹性感染症です。
予後は良好ですが、重篤な合併症を併発することもあります。胎児に先天異常などの様々な症状を示す先天性風疹症候群もあります。
1994年以降、ワクチンの定期接種により大きな流行はみられなくなりましたが、2012-2013年に全国的に大流行となり、先天性風疹症候群も報告されました。
また、2018年8月には首都圏で風疹患者が急増しており、早くも過去2年の年間患者数を上回っています。
風疹、先天性風疹症候群は、五類感染症の全数報告対象疾患で、
医師は、風疹と診断した場合は直ちに、先天性風疹症候群と診断した場合は7日以内に最寄りの保健所に届け出なければなりません。
また、学校保健安全法では第2種の学校感染症に定められており、発疹が消失するまで出席停止になりますが、
病状により学校医その他の医師において感染の恐れがないと認めたときは、この限りではありません。
1. 微生物1)
2. 感染症
症状
通常2~3週間(平均16~18日)の潜伏期間後に発症しますが、不顕性感染もあります。
全身性の小紅斑や紅色丘疹、リンパ節腫脹(全身、特に頚部、後頭部、耳介後部)、発熱が特徴ですが、発熱を生じるのは風疹患者の半数程度です。
予後は良好で、麻疹のように発疹のあとが長く残ることもなく、発熱・発疹は3~5日程度で消退するため、「三日ばしか」とよばれます。
なお、リンパ節腫脹は発疹出現数日前に出現し、3~6週間で消退します。
しかし、まれに合併症と
して関節痛・関節炎(思春期~成人女性に多い)、脳炎(4~6千例に1例)、血小板減少性紫斑病(3~5千例に1例)などが生じます。
また、小児が感染しても症状は比較的軽いですが、成人では重症化しやすく、発熱や発疹の期間が小児より長くなり、関節痛が酷くなることが多いとされています。
最大の問題点は、妊娠20週頃まで(とくに妊娠初期)の女性に感染すると、出生児に先天性心疾患、難聴、白内障や、精神や身体の発達の遅れ等の先天性風疹症候群と総称される障がいを引き起こすことがある点です。
不顕性感染で、母親が無症状であっても先天性風疹症候群は発生し得ます。
治療等
発熱、関節炎などに対しては解熱鎮痛剤が用いられますが、特異的な治療法はなく、対症療法が基本となります。
熱がでている間は、十分な水分補給、安静が大切です。
3. 感染経路
咳やくしゃみからの飛沫感染が主な感染経路ですが、タオルの共用やドアノブなどに接触することによる接触感染もあります。
感染伝播する期間は発疹出現前後1週間であるため、感染に気付かずに周囲に広げてしまう傾向があります。
先天性風疹症候群は、妊婦がウイルス感染し、胎盤を通じて胎児に感染する経胎盤感染によります。
4. 消毒剤感受性
エンベロープをもつウイルスで消毒薬感受性は高く、低水準消毒薬でも有効との報告2)があり、実際の対応で、消毒用エタノールや次亜塩素酸ナトリウムなどの中水準の消毒薬を使用している報告3)があります。
感染対策INFECTION CONTROL
感染防止対策
予防にはワクチンが勧められています。1994年以降ワクチンの定期接種になり、2006年から2回接種となりました。
ワクチン1回接種による免疫獲得率は約95%、2回接種による免疫獲得率は約99%と考えられています。
感染対策は、標準予防策に加え飛沫予防策を行うことが求められます。
なお、医療機関を受診する外来患者、入院患者と接触する可能性がある全ての職員・実習生に対する対応、病院感染対策については、国立感染症研究所より「医療機関における風しん対策ガイドライン(平成26年3月平成26年4月3日一部改訂)」が公表されており、抜粋して下記に紹介します。なお、詳しくはガイドラインをご参照ください。
平常時の対応(最も重要)
- すべての職員および実習生の風しん罹患歴と風しん含有ワクチン接種歴を確認・保管しておき、2回の予防接種歴の未確認者、
抗体を保有していない者は風しん含有ワクチンの接種を推奨する。*
外来での対応
- 風しんの疑いのある患者にマスク着用を依頼し、速やかに他の患者・面会者等への飛沫曝露がない場所(別室など)へ誘導する。
病棟での対応**
- 風しんの疑いのある患者で入院が必要な場合は、個室に入院することが勧められるが、施設構造上の制約等により難しい場合には、飛沫予防策を考慮して対応する。なお、妊婦や免疫機能が低下している患者、風しん感受性者(風しんに対する免疫を保有していないあるいは不十分なもの)との同室は避ける。
- 先天性風しん症候群の児は、飛沫感染ならびに接触感染の予防を考慮して対応する。
- 他疾患で入院中の患者が風しん疑いと診断された場合には、速やかにマスク装着を依頼し、上記と同様の対応とする。
- 風しんの疑いのある患者が職員・実習生の場合は、速やかに勤務(実習)中止とする。**
- 風しんウイルスに曝露し発症する可能性のある風しん感受性者に対しては、発症予防策を迅速に検討するとともに、
風しん感受性者とは接触しないようにする。特に妊娠中の者については、速やかに産婦人科に相談する。
対応する職員
- 原則として、風しん含有ワクチンの接種歴が記録で2回確認できた者又は罹患歴有りを抗体価陽性で確認できた者が患者の対応にあたる
(飛沫感染する他の疾患の可能性も考え、サージカルマスクの着用が推奨される) - 特に風しん抗体価や罹患歴不明の職員が風しん患者に対応せざるを得ない場合は、必要な感染防御策を行い、妊娠していない職員が対応する。
風しん患者発生状況の継続的な把握と疫学調査
- 院内患者発生後 1か月は、風しん患者の発生に十分注意し、上記の対応・調査を実施するとともに、患者(疑い含む)発生時は、迅速に対応する。
- * : 風しん含有ワクチンを接種する場合は、接種不適当者(免疫不全者、妊婦等)に接種することがないよう、十分な配慮を行う。
- ** : 風しん患者と接触した場合は、接触後1週間から4週間は発症して周りの人に感染伝播する可能性があると考えて対応するべきである。
風疹施設内感染防止対策のポイント3-5)
呼吸器衛生/咳エチケット |
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手指 | 目に見える汚れがある場合には石けんと流水による手洗い、目に見える汚れがない場合にはアルコール手指消毒薬による手指衛生を行う。 |
マスク | 患者の1m以内に近づくときはサージカルマスクを着用する。 |
患者病室 |
個室に入院することが勧められるが、施設構造上の制約等により難しい場合には、集団隔離で対応する。 なお、妊婦や免疫機能が低下している患者、風疹感受性者との同室は避ける。 他の対応策としてはベッドの間隔を1m以上離し、カーテンで仕切って閉めておく、換気により新鮮な空気を取り入れる、などがある。 |
患者移動・搬送 |
原則として、病室外への外出は控えてもらう。 やむを得ず病室外にでる必要がある場合は、患者にマスクを装着してもらい、できる限り外出時間を短くすることで、周りの人への感染拡大を予防する。 妊婦や免疫機能が低下している患者とは接触しないように配慮する。 |
環境管理 |
退院後、ベッドは洗浄するかまたは0.1%次亜塩素酸ナトリウムで清拭する。シーツは感染性リネンとして処理する。 手の触れる部分は、消毒用エタノールや次亜塩素酸ナトリウムなどで清拭する。 |
関連リンク
- 〈厚生労働省ホームページより〉
- 〈国立感染症研究所ホームページより〉
-
- 「医療機関における風しん対策ガイドライン(平成26年3月 平成26年4月3日一部改訂)」 https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/disease/rubella/kannrenn/iryoukikann-taisaku.pdf
- 「風疹とは」 https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/430-rubella-intro.html
- 「先天性風疹症候群とは」 https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/429-crs-intro.html
- 「風疹Q&A」 https://www.niid.go.jp/niid/ja/rubellaqa.html
- 〈東京都 感染症情報センターホームページより〉
- 〈東京都 福祉保健局ホームページより〉
参考資料
- 1) 吉田眞一、他編:戸田新細菌学,改訂34版.南山堂,2013,631-5.
- 2) 川名林治、他:臨床とウイルス1998;26(5):371-85.
- 3) 小林信一:小児科診療2006;12(67):1875-8.
- 4) 増田剛太:ナースのための感染症対策マニュアル.アンファミエ,2008,168-9.
- 5) CDC:2007 Guideline for Isolation Precautions: Preventing Transmission of Infectious Agents in Healthcare Settings https://www.cdc.gov/infectioncontrol/guidelines/isolation/index.html