丸石製薬株式会社

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医療関係者向情報サイト 医療ナレッジ 感染症情報 RSウイルス

概要SUMMARY

RSウイルス感染症は、例年、季節性インフルエンザに先行して、
夏頃より始まり秋に入ると患者数が急増し、年末をピークに春まで流行が続くことが多くなります。

RSウイルス感染症は、感染症法5類感染症で定点把握疾患に定められており、全国約3,000カ所の小児科定点より毎週報告されます。
2017年の小児科定点からの報告数は、第13週以降過去10年間と比べて多く、第32週の報告数は昨年同期と比べて約4.7倍です。

RSウイルス感染症は、乳幼児に多い急性呼吸器感染症で、
軽いかぜに似た症状から、重症化すると細気管支炎や肺炎などを引き起こすため入院が必要になる場合もあります
(乳幼児の細気管支炎の50~90%、肺炎の50%がRSウイルスによる)。

新生児や生後6カ月以内の乳児は初感染すると最も重症化しやすく、
また、低出生体重児、心肺系に基礎疾患がある、免疫不全、ダウン症児などでは重症化のリスクが高く、注意が必要です。
さらに、慢性呼吸器・心疾患を合併する高齢者でも重症化が知られています。

1. 微生物

RSウイルスの電子顕微鏡写真
(CDCホームページより1)

RSウイルス(Respiratory syncytial virus)は直径80~350nmの球形、あるいはフィラメント状を呈する、エンベロープを持つ1本鎖RNAウイルスで、パラミクソウイルス科のニューモウイルス亜科に分類されます。

構成蛋白であるG蛋白により、大きくA型とB型の二つに分類でき、一般にA型の方が重症になるといわれています。

RSウイルスの名前は、呼吸器(respiratory tract)感染症患者から分離され特徴的な合胞体(syncytium)を形成するという特徴に由来しています。

2. 感染症

症状

潜伏期間は2~8日、典型的には4~6日間で、発熱、最初は鼻汁(多量の鼻汁)、軽い咳などの上気道炎症状が2~3日続きます。
発熱は、入院時には38℃以下になるか消失していることもあります。

咳も主な症状ですが、持続、増悪する咳は下気道疾患への進展を示唆し、
特に細気管支炎では喘鳴(息を吐く時に聞かれるゼーゼー、ヒューヒューという呼吸音がする)、
陥没呼吸や呼吸困難(鼻や口唇にチアノーゼが認められる)がみられます。

生後4週未満では、軽症の状態でも突然無呼吸発作を起こすことがあり、
乳幼児突然死症候群(SIDS)の原因になるとされています。

罹病期間は通常7~12日で、入院例では3~4日で改善してくるとされますが、
ウイルスの排泄は持続し、ガス交換の異常も数週間続くと考えられています。

治療等

RSウイルス感染症に特異的な治療法はなく、基本的には、酸素投与、輸液、呼吸管理などの対症療法を行います。

免疫

母体からの移行抗体だけでは感染防御は不十分なため、新生児にも感染します。
1歳までに半数以上が感染し、2歳までにすべての小児が感染し、3歳までに抗体を獲得します。

麻疹やムンプスとは異なり、感染しても十分な免疫が成立しないため、再感染を繰り返しますが、
再感染のたびに症状は軽くなっていき、風邪症状だけで治まるようになります。

しかし、RSウイルスに感染した小児を看護する保護者や医療スタッフでは、
一度に大量のウイルスに曝露して感染することによって、症状が重くなる場合があり、
さらに、慢性呼吸器・心疾患を合併する高齢者においてもしばしば急性の重症下気道炎を起こし、
入院・死亡原因となることが知られています。

3. 感染経路

RSウイルスの主な感染経路は飛沫感染と接触感染です。
飛沫感染では、咳やくしゃみで飛散したウイルスを直接吸い込むことによって感染します。
接触感染も多く、鼻汁や痰に含まれるウイルスが皮膚や衣服・玩具などの物品や器具、それらに接触した手指を介して感染します。

RSウイルスの侵入門戸としては、眼瞼結膜や鼻粘膜が主で、マスクだけでは十分な対策が取れないとされます。
ウイルスの排出期間は1~2週間程度であるが、乳児や免疫不全患者では3~4週間と長期に及ぶことがあります。

RSウイルスの感染力は強く、家族間の感染は高率に生じます。
乳幼児集団生活施設等(小児科・新生児病棟、保育所、幼稚園など)や高齢者の長期療養施設における集団感染がしばしば問題となっています。
また、病棟のスタッフおよび面会者が感染の媒介となる可能性があるとされています。

4. 消毒剤感受性

エンベロープを持つウイルスであるため、アルコール系消毒剤や次亜塩素酸ナトリウムなど中水準以上の消毒剤の使用が有効とされています4)

感染対策INFECTION CONTROL

環境抵抗性

RSウイルスは温度変化に弱く、55℃ 5分間、37℃ 24時間、4℃ 4日間で90%が失活します2)が、皮膚(手)や物品に付着したRSウイルスは、常温で長時間感染性を保ち、物品や皮膚(手)から手へ移行したRSウイルスもしばらく感染性を有します3)

物品や皮膚(手)に付着したRSウイルスの生存時間(分離されなくなった時点)3)
成人検体 乳児検体
作業台 成人検体 : 8時間 乳児検体 : 7時間
布製のガウン 成人検体 : 2.5時間 乳児検体 : 1時間
ゴム製の手袋 成人検体 : 5.5時間 乳児検体 : 2時間
ティッシュペーパー 成人検体 : 1時間 乳児検体 : 1時間
皮膚(手) 成人検体 : 1時間 乳児検体 : 0.5時間
物品や皮膚(手)から手へ移行したRSウイルスの生存時間3)
乳児検体
作業台から手へ 乳児検体 : 30分
ティッシュペーパーから手へ 乳児検体 : 10分
布製のガウンから手へ 乳児検体 : 5分
皮膚(手)から手へ 乳児検体 : 10分
  • 成人検体 : 保存RSウイルス液を成人のプールされた鼻汁に加えたもの
  • 乳児検体 : RSウイルス感染で人院中の乳児より採収された鼻汁

感染防止対策

RSウイルスは米国疾病管理予防センター(CDC)では標準予防策に加えて接触予防策をとることが求められています。
また、飛沫により感染するため、マスクによる対策も勧められています。
対策の期間は、罹患期間(ただし、免疫不全患者では、排出が遷延するので接触予防策の期間を延長する)です。

最も重要なのは、重症化のリスクが高い患者にRSウイルスを感染させないことであり、
隔離や集団隔離が基本となりますが、不可能な場合は、逆隔離を考慮します。

乳幼児は現実的に手指衛生やマスクなどが困難な場合も多く、
成人の看護より濃厚に接触することになるなどの問題もあり、状況に応じた適切な対応を取ることが求められます。

RSウイルス感染症に対しては、現在、ワクチンはありません。投与対象患者は限定されていますが、ウイルスの感染性を中和し,
ウイルスの複製および増殖を抑制するモノクローナル抗体製剤であるパリビズマブ(Palivizumab)の投与により、重篤な下気道炎症状の発症の抑制が期待できます。

RSウイルスの感染防止対策例

手指 厳重な手指衛生(手洗いと手指消毒)が感染防止のために、もっとも重要な対策です。手指衛生にはアルコール手指消毒剤、 また目に見える汚染のある場合は石ケンと流水による手洗いを行います。
呼吸器衛生/咳エチケット マスクを着けさせることができる患者には、咳エチケットを行ってもらいます。
  • 咳やくしゃみをするときにはティッシュで口・鼻を覆い、ゴミ箱に捨てる。(指示を掲示する)
  • ノンタッチ式ゴミ箱(フットペダル式、開放式)を用意する。
  • 待合室等、使用しやすい場所に擦式消毒剤を設置し、シンクのある所では手洗い用品を配置する。
  • 地域流行時は咳のある患者にマスクをしてもらい、他の人から1m以上離れるよう勧める。
個人保護具(PPE) 分泌物などに触れる場合は手袋を着用します。飛沫による感染が予想される場合はマスクを着用します。
また、分泌物で衣類が汚染されることが予期される場合はガウンを着用します。眼瞼結膜から主に感染するためゴーグルも有効ですが、
患者のそばなど使用が難しい場合は、眼に触れないように注意します。
汚染された手袋やガウンなどで、周囲や患者に汚染を広げないよう、ただちに外し、手袋を外した後は手指衛生が必要です。
患者病室 隔離や集団隔離が必要です。RSウイルス患者を扱うスタッフは、手洗い、ガウンテクニック、マスクなどの着用を徹底します。
可能であれば、RSウイルス患者に対応する医療従事者は乳児やハイリスク患者のケアから外すなどの配慮が勧められます。
外来でもトリアージにより、できるだけRSウイルス患者とハイリスク患者を離した対応をします。
器具、物品類 接触予防策に従い、医療器具や玩具などの物品は個人専用とします。
消毒を行う場合は、アルコール系消毒剤や次亜塩素酸ナトリウム、熱による消毒などで行います。
環境 手指の触れる部分をアルコール系消毒剤や次亜塩素酸ナトリウムなどで清拭消毒します。
ハイリスク患者 流行時はハイリスク患者に感染させないため、呼吸器症状がある面会者の面会は避け、呼吸器症状がある医療従事者も接触を避けます。
RSウイルス感染による重篤な下気道疾患の発症抑制ができるモノクローナル抗体「パリビズマブ」があり、
適応があるハイリスクの乳幼児に投与を考慮します。

関連リンク

〈厚生労働省ホームページより〉
〈国立感染症研究所ホームページより〉
〈CDCホームページより〉

参考資料

  • 1) CDC:Public Health Image Library (PHIL) 新しいタブで画像が開きます https://phil.cdc.gov/PHIL_Images/09202002/00006/PHIL_2175_lores.jpg
  • 2) 菱木はるか、他:小児看護 2005;28(5):603-10.【7897】
  • 3) Hall CB, et al.:THE JOURNAL OF INFECTION DISEASES 1980;141(1):98-102. 【21418】
  • 4) 河合利尚:小児看護 2013;36(1):17-22. 【22304】