感染症情報「ノロウイルス」
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概要SUMMARY
1. 微生物1〜5)
2. 感染症1〜5)
ノロウイルス感染による感染性胃腸炎や食中毒は年間を通して報告されていますが、特に冬季に多発・流行する傾向が全国的に見られます。
潜伏期間は1~2日で、主症状は嘔気、嘔吐、下痢です。
発熱は軽度で、腹痛、頭痛、悪寒、筋痛、咽頭痛、倦怠感などが伴うことがありますが、症状は全般的に軽く、発症しない場合や軽い⾵邪のような場合もあります。
通常、2〜3⽇で⾃然回復します。
しかし、⾼齢者や乳幼児、病弱な⼈では嘔吐・下痢による脱⽔や窒息、誤嚥性肺炎などによる死亡例も⾒られ、注意が必要です。
ウイルス性胃腸炎集団発生の最も重要な病原因子であり、小児から成人までの全年齢層に感染し、
小児には散発性の急性胃腸炎(主に嘔吐)を、年長児から成人に集団食中毒(主に下痢)を起します。
現在、このウイルスに効果のある抗ウイルス剤やワクチンはありません。
通常、対症療法を行いますが、最も重要なことは経口や点滴等による水分補給により、脱水症状を防ぐことです。
3. 感染経路1〜5)
基本的には経口による感染が主ですが、食中毒事例のうち、約7割は原因食品が特定できていないようです。
感染力が強く、乾燥に強いため、接触や飛沫、空気感染による二次感染も容易に起こるといわれています。
症状が消失した患者がその後1週間程度、長い場合は1ヵ月にわたって便中にウイルスが排泄されることが知られており、二次感染に注意が必要です。
経口感染
- 生や十分に加熱していないウイルスに汚染された食品(カキなどの二枚貝が代表的原因食品)
- 調理した人の手指や調理器具を介して汚染された非加熱食品(サラダ、サンドイッチなど)
- 汚染された水や氷による(液体が汚染されると集団感染は大規模になりやすい)
接触感染(接触した手指を介し口から入る場合)
- 感染した人の便や吐物に触れた手指を介する
- 感染した人の手指や感染した人が触れた衣服、器具等への接触による
飛沫感染
- 患者の便や吐物が飛び散り、その飛沫を吸い込む
- 便や吐物を不用意に始末したときに発生した飛沫を吸い込む
空気感染
- 患者の便や吐物の処理が不十分なため、それらが乾燥して飛沫よりもさらに細かい粒子となって空気中を漂い、経口感染する
4. 消毒剤感受性3,4,7〜9)
加熱(消毒対象物が85℃1分以上になる条件)が有効とされています。
消毒剤では次亜塩素酸ナトリウムが有効であり、エタノールや逆性石鹸はあまり効果がないとされています。
しかし、エタノール製剤については添加物の違いにより効果に様々な報告があります。
次亜塩素酸ナトリウムについても有機物(血液、体液、食物残渣)の存在により速やかに濃度や効果が低下するなど、注意が必要になります。
5. In vitroでのヒトノロウイルス代替ウイルス不活化効果9,10)
ノロウイルスの消毒効果については、ヒトノロウイルスの消毒効果は技術的に確⽴していないため、代替ウイルスによる不活化効果をもとに判定されています。CDC ガイドラインでは、ネコカリシウイルスかマウスノロウイルスのどちらか⼀⽅の代替ウイルスだけに効果的な消毒剤よりも、両代替ウイルスに対して効果的な消毒剤の⽅が、ヒトノロウイルスに対して効果的である可能性を⽰しています。
代替ウイルスに対する消毒薬の効果は次の通りです。
報告例1 : 各種消毒剤のネコカリシウイルス不活化効果(接触時間1分)11)
消毒剤 | 濃度 | 対数減少値(log10 reduction) |
---|---|---|
消毒剤 : グルタラール | 濃度 : 0.5% | 対数減少値(log10 reduction) : 5 |
消毒剤 : 次亜塩素酸ナトリウム | 濃度 :
|
対数減少値(log10 reduction) :
|
消毒剤 : エタノール | 濃度 : 75v/v% | 対数減少値(log10 reduction) : 1.25 |
報告例2 : 次亜塩素酸ナトリウムのネコカリシウイルス不活化効果12)
試験薬剤 | 対数減少値(log10 reduction)(ウイルス不活化率(%)) | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
清浄条件 | 汚濁条件 | |||||
30秒 | 1分 | 5分 | 30秒 | 1分 | 5分 | |
200ppm(0.02%) | >4.00(>99.99%) | >4.00(>99.99%) | >4.00(>99.99%) | 0.17(32.4%) | 0.83(85.2%) | 1.00(90.0%) |
500ppm(0.05%) | >4.00(>99.99%) | >4.00(>99.99%) | >4.00(>99.99%) | >4.00(>99.99%) | >4.00(>99.99%) | >4.00(>99.99%) |
1000ppm(0.1%) | >4.00(>99.99%) | >4.00(>99.99%) | >4.00(>99.99%) | >4.00(>99.99%) | >4.00(>99.99%) | >4.00(>99.99%) |
報告例3-1 : エタノール製剤のネコカリシウイルス不活化効果13,14)
消毒剤 | 対数減少値(log10 reduction)(ウイルス不活化率(%)) | |||
---|---|---|---|---|
15秒 | 30秒 | 60秒 | 300秒 | |
ウエルセプト® | >4.50 | >4.50 | >4.50 | >4.50 |
ウエルパス®手指消毒液0.2% | 0.83 | 1.17 | 1.50 | 3.50 |
消毒用エタノール | 0.33 | 0.67 | 0.33 | 1.67 |
- ウエルセプト®高頻度接触面消毒用14) : 15秒でのウイルス不活化率 >99.99%
報告例3-2 : エタノール製剤のマウスノロウイルス不活化効果
- ウエルセプト®15) : 15秒でのウイルス不活化率>99.99%
- ウエルセプト®高頻度接触面消毒用14) : 15秒でのウイルス不活化率>99.99%
注 : ウイルスの不活化効果についてはウイルス感染価(TCID50:50%組織培養感染価)で評価
対数減少値(log10 reduction)は、log(消毒前ウイルス感染価数/消毒後ウイルス感染価数)を表し、
log10 reduction1.0は1/10に減少すること
log10 reduction2.0は1/100に減少すること
log10 reduction3.0は1/1000に減少すること
log10 reduction4.0は1/10000に減少することを示す。
感染対策2,16,17)INFECTION CONTROL
感染防止対策
ノロウイルスの感染経路は、汚染食品を介した経路と感染者からの二次感染に大別されます。
食品を介した感染を防ぐには、ウイルスで汚染された食品の調理は加熱を十分に行うことが効果的です。また、調理器具の熱湯消毒・塩素消毒、手洗いや手袋の使用などが重要です。
⼈から⼈への⼆次感染予防としては、⼿洗いなどが重要とされています。
標準予防策の徹底が最も重要で、その他接触予防策や飛沫予防策を実施し、状況に応じて適切な感染予防を行ってください。表にノロウイルス施設内感染防⽌対策のポイントについて紹介します。
ノロウイルスの感染防止対策例
手指 | 石けんを用いた十分な手洗いが対策の中心になります。 エタノールのみではあまり効果がないとされていますが、⼿洗い後、ノロウイルスに対して作⽤を⾼めたアルコール⼿指消毒剤を使⽤することにより効果が期待できます。 また、手袋を使用することは感染対策として有効ですが、他患者や周囲の環境を汚染しないよう、適切に交換することが必要です。 |
---|---|
食品 | ⼆枚⾙などノロウイルスの汚染の恐れがある⾷品は中⼼温度85℃〜90℃で90秒以上の加熱を⾏えば、感染性はなくなるとされています。 |
調理台 調理器具 |
調理器具等は十分に洗浄した後、次亜塩素酸ナトリウム0.02%で消毒してください。また、まな板、包丁、へら、食器、ふきん、タオル等は熱湯(消毒対象物が85℃1分以上になる条件)での加熱が有効です。 |
嘔吐物 糞便 |
患者の吐物や糞便を処理するときには、使い捨てのマスクと手袋を着用し、汚物中のウイルスが飛び散らないように、静かに拭き取ってください。 床に付着した糞便や吐物は次亜塩素酸ナトリウム0.1%で拭き取ってください。 また、ノロウイルスは乾燥すると容易に空中に漂い、これが口に入って感染することがあるので、吐物や糞便は乾燥させないことが感染防止に重要です。 |
リネン類 | ベッドマット、毛布、およびシーツなどのリネン類の消毒は、85℃1分間以上の熱水洗濯が適しています。ただし、熱水洗濯が行える洗濯機がない場合には、水洗後、次亜塩素酸ナトリウム0.02%の消毒が有効です。 |
環境 | ドアノブなどの環境を介した感染も考えられ、トイレ・風呂などを衛生的に保つことも求められます。消毒が必要な場合は消毒用エタノールによる二度拭きあるいは次亜塩素酸ナトリウム0.02%などをご使用ください。ただし、次亜塩素酸ナトリウムは金属腐食性があり、その後水拭きして除去するなどの配慮が必要です。 |
感染症法における取り扱い
「感染性胃腸炎」は定点報告対象(5類感染症)であり、指定届出機関(全国約3,000カ所の⼩児科定点医療機関)は週毎に保健所に届け出なければなりません。
汚物・吐物処理方法ムービー
- mp4ファイル/再生時間 : 5分10秒(198MB)
- ダウンロードされたムービーファイルはZIP形式で圧縮されていますので解凍してからご覧ください。
ご利用環境によりダウンロードに時間がかかることがあります。
関連リンク
- <厚生労働省ホームページより>
- <国立感染症研究所 ホームページより>
- <米国 CDCのホームページより>
-
- 「ノロウイルス」 https://www.cdc.gov/norovirus/index.html
- 「最新のノロウイルスのアウトブレイクの管理と疾病予防のガイドライン」 https://www.cdc.gov/mmwr/pdf/rr/rr6003.pdf
- <東京都福祉保健局公式ホームページより>
-
- 「社会福祉施設等におけるノロウイルス対応標準マニュアル」 http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/shokuhin/noro/manual.html
- <東京都感染情報センターホームページより>
-
- 「ノロウイルス対策緊急タスクフォース」 http://idsc.tokyo-eiken.go.jp/diseases/gastro/noro_task/
参考資料
- 1) 国⽴医薬品⾷品衛⽣研究所:ノロウイルスとは http://www.nihs.go.jp/fhm/fhm4/fhm4-nov011.html
- 2) 厚⽣労働省:ノロウイルスに関するQ&A https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/kanren/yobou/040204-1.html
- 3) 国⽴感染症研究所:ノロウイルス感染症とは https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/452-norovirus-intro.html
- 4) ⻄尾治、他:⽇本⾷品衛⽣学雑誌2005年46巻6号p.235-245
- 5) 感染症情報センター:ノロウイルス感染症とその対応・予防 http://idsc.nih.go.jp/disease/norovirus/taio-b.html
- 6) CDC: Public Health Image Library(PHIL) https://phil.cdc.gov/Details.aspx?pid=10705
- 7) 厚⽣労働省:感染症法に基づく消毒・滅菌の⼿引きについて令和4年3⽉11⽇ https://www.mhlw.go.jp/content/000911978.pdf
- 8) 平成27年度ノロウイルスの不活化条件に関する調査報告書 https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000125854.pdf
- 9) 野⽥衛、他:国⽴医薬品⾷品衛⽣研究所報129,37-54(2011) https://www.nihs.go.jp/library/eikenhoukoku/2011/037-054.pdf
- 10) CDC:Updated Norovirus Outbreak Management and Disease Prevention Guidelines https://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/rr6003a1.htm
- 11) J.C.Doultree et al.:J.Hosp.Infect 1999;41:51-7.【19378】
- 12) 社内資料:ミルクポン®のin vitro有効性評価ノロウイルス代替ネコカリシウイルス不活化効果
- 13) 社内資料:ウエルセプト®のネコカリシウイルスに対するin vitro不活化試験
- 14) 社内資料:ウエルセプト®の⾼頻度接触⾯消毒⽤のウイルスに対するin vitro不活化試験
- 15) 社内資料:ウエルセプト®in vitroウイルス不活化試験
- 16) 編集⼤久保憲、他:2020年版消毒と滅菌のガイドライン改訂4版(ヘルス出版)
- 17) 厚⽣労働省:⼤量調理施設衛⽣管理マニュアル(最終改正:平成29年6⽉16⽇付け⽣⾷発0616第1号) https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000168026.pdf
2023年12⽉