消毒の”きほん”
「人体」
医療関係者向情報サイト 医療ナレッジ 消毒の”きほん” 人体
人体に対して一般的に用いられる代表的な消毒方法を以下にご紹介します。
消毒を実施する場合には、ご使用される薬剤の添付文書等をご確認の上、行っていただきますようお願いいたします。
手指FINGER
看護・処置行為によって医療従事者の手指に微生物が伝播することが知られており、手指衛生(手洗い及び手指消毒)を行わなければ病原体を媒介し、医療関連感染を広げる可能性があります。接触予防策がもとめられる病原体、例えば、MRSA、VRE、緑膿菌、セラチア等では手指衛生が重要となります。このように、手指衛生は感染防止上、最も重要かつ基本的な感染防止対策とされています。
従来、手指衛生の基本は流水下での石けんを用いた手洗いでした。しかし、米国疾病管理予防センター(Centers for Disease Control and Prevention;CDC)が2002年10月に発表している「CDC Guideline for Hand Hygiene in Health-Care Settings, 2002(保健医療現場における手指衛生のためのガイドライン) 1);以下、CDCガイドライン2002」では、普通石けんの手洗いだけでは病原体が十分に除去できないこと、シンクへの移動が必要なため実施率が低いこと等を問題視し、「手指に目に見える汚染がなければ、1C~J(下表)に示す全ての臨床状況において、アルコールベースの擦式手指消毒剤を用いてルーチンの手指の汚染除去を行うこと1)」を推奨しています。
1C | 患者へ直接触れる前に手指の汚染除去を行う。 | Decontaminate hands before having direct contact with patients 1) |
---|---|---|
1D | 中心静脈カテーテル挿入時に滅菌手袋装着前の手指の汚染除去をおこなう。 | Decontaminate hands before donning sterile gloves when inserting a central intravascular catheter 1) |
1E | 外科措置を必要としない導尿留置カテーテル、末梢血管カテーテルまたはその他の侵襲性のデバイスを挿入する前の手指の汚染除去を行う。 | Decontaminate hands before inserting indwelling urinary catheters, peripheral vascular catheters, or other invasive devices that do not require a surgical procedure 1) |
1F | 損傷のない患者皮膚に触れた後(脈拍や血圧測定、患者を抱き上げるなど)の手指の汚染除去をおこなう。 | Decontaminate hands after contact with a patient’s intact skin (e.g., when taking a pulse or blood pressure, and lifting a patient) 1) |
1G | 体液または排泄物、粘膜、正常ではない皮膚及び創傷ドレッシングに触れた後は目に見える汚染がなくても手指の汚染除去を行う。 | Decontaminate hands after contact with body fluids or excretions, mucous membranes, nonintact skin, and wound dressings if hands are not visibly soiled1) |
1H | 患者ケア中に体の汚染部位から清浄部位に移動するときには手指の汚染除去を行う。 | Decontaminate hands if moving from a contaminated-body site to a clean-body site during patient care1) |
1I | 患者のすぐ近くにある物品(医療機器を含む)に触れた後は、手指の汚染除去を行う。 | Decontaminate hands after contact with inanimate objects (including medical equipment) in the immediate vicinity of the patient1) |
1J | 手袋をはずした後の手指の汚染除去を行う。 | Decontaminate hands after removing gloves1) |
アルコール手指消毒剤の利点
- ①殺菌効果が高い(減菌率が高い)。
- ②殺菌スペクトルが広い。
- ③高い手指消毒実施率が得られやすい。
- ④他剤を配合することにより、持続効果も期待できる。
なお、アルコール手指消毒剤には洗浄効果がなく、また細菌芽胞に対して殺菌効果がありません。手指に血液・体液等の目に見える汚染がある場合や細菌芽胞が問題となる場合(手術時や三方活栓操作時等)には、流水下で普通石けんや抗菌石けん(スクラブ剤)での手指衛生を行うか、十分洗浄した後にアルコール手指消毒剤を使用します。また、手袋を着用している場合、手袋のピンホールを介して、あるいは手袋をはずす際に手指が汚染される可能性があるため、手袋をはずした後は手指衛生を行うことが必要です。アレルギー等でアルコール手指消毒剤を使えない場合は抗菌石けんによる流水下での消毒で代用します。
手指衛生を行う際は、洗い残し(消毒されていない)箇所が残らないよう注意して行うことが大切です。図1、2のような手順が推奨されています。なお、業務の開始及び終了時等、手首を追加する場合は、擦式消毒(図1)の際は2と3の間に、流水下での衛生的手洗い(図2)の際は最後に追加して行います。
なお、手荒れ防止のためハンドケア等をすることも重要です。手荒れにより、MRSAや緑膿菌等の病原微生物が定着しやすくなり、手指洗浄・消毒効果を十分に発揮できないばかりでなく、手指衛生を行う回数も少なくなります。これまでにこのような、手荒れが原因で医療関連感染を生じた例がいくつも報告されています。
手術時手指SURGERY
手術時手指消毒として従来、「4w/v%クロルヘキシジンスクラブ剤もしくは7.5w/v%ポビドンヨードスクラブ剤を使用して、肘までブラシで擦るスクラブ法が行われてきた3)」のですが、ラビング法とスクラブ法を比較して、その消毒効果に差がないことが明らか2, 3)とされており、「ブラシによる皮膚のダメージはかえって手荒れの原因となり、細菌増殖により手術部位感染の発症率を高める危険のあることが指摘されている1, 2, 3)」ことから、「手荒れの心配が少なく、短時間で済み、医療者の遵守率の高いラビング法が普及しつつある3)。」とされています。
- ラビング法(ウォーターレス法)
- スクラブ剤は用いず、通常の石けんでの流水手洗い後、持続殺菌効果のあるアルコール手指消毒剤(ラビング剤)で手指消毒する方法。手の汚れは石けんで取り、消毒には水を使わずアルコール手指消毒剤のみで行うためウォーターレス法とも呼ばれる。
- ツーステージ法
- 殺菌効果のあるスクラブ剤での流水手洗い後、アルコール手指消毒剤で手指消毒する方法。
※2005年2月の医療法施行規則改正により、手術時手洗いに使用する水は滅菌水である必要はなく、清潔な水(適切に管理された水道水等)でよいこととされました4)。
- ラビング法(ウォーターレス法)の手技
- 通常石けんと流水(水道水で良い)による予備洗浄を行い、汚れを落とした後、非滅菌のペーパータオルで水分を拭き取ります。その後、持続殺菌効果のあるアルコール手指消毒剤を手掌に取り、手指や前腕部を消毒します。使用する薬液量や擦式回数は2~3mL×3回や5mL×2回等、製剤や報告によって手技が複数見られます。アルコール手指消毒剤を擦り込みながら、手指を乾燥させますが、この時、タオルは使用しません。
なお、スクラブ剤として広く使用されているクロルヘキシジンスクラブとヨードホールスクラブでは、ヨードホールの方が広範囲の微生物に有効ですが、実使用における消毒直後の効果、持続効果、数日使用した場合の累積効果ともクロルヘキシジンスクラブの方が高いと評価されています1)。
皮膚・手術部位皮膚SKIN
クロルヘキシジンエタノール及びヨードホールが広く使用されています。皮膚消毒前に目に見える汚染は洗浄等で除去しておくことが大切です。さらに、消毒用エタノール等で脱脂後、ヨードホールによる消毒を行う方法もあります。
消毒を行うためには消毒剤が微生物に一定の時間接触することが必要であり、十分な量の消毒剤を使用する必要があります。「同心円状に外側に向かって、十分広い(切開延長や新たな切開ができる)範囲を、3回程度消毒することが勧められます3)」。しかし、下記に示すように、体の下にたまった状態や、ガーゼ、シーツ等にしみ込み、薬液で湿った状態で長時間皮膚に接触させないよう注意が必要です。
- クロルヘキシジンエタノール
-
- 引火性、爆発性があるため、火気(電気メス使用等も含む)には十分注意すること。また、電気メスによる発火事故が報告されているので、電気メス等を使用する場合には、本剤を乾燥させ、アルコール蒸気の拡散を確認してから使用すること。
- ヨードホール
-
- 大量かつ長時間の接触によって接触皮膚炎、皮膚変色があらわれることがあるので、溶液の状態で長時間皮膚と接触させないこと。(薬液が手術時に体の下にたまった状態や、ガーゼ・シーツ等にしみ込み湿った状態で、長時間皮膚と接触しないよう消毒後は拭き取るか、乾燥させるなど注意すること。)
- 電気的な絶縁性をもっているので、電気メスを使用する場合には、対極板と皮膚の間に薬液が入らないよう注意すること。
また、ヨードホールは褐色であるため、消毒後、ハイポ(チオ硫酸ナトリウム)で脱色させる場合がありますが、脱色された時点で消毒効果も消失します。脱色を行う場合は、ヨードホールを塗布後、数分待って、消毒が完了してから行って下さい。
「ヨードホールは乾燥してから処置を行う」とされています。これは、十分な消毒効果を得るために、乾燥するまでにかかる数分間程度の接触時間は必要であるということを示しています。
これは、乾燥後の方がヨードホールの効果が高くなることを意味しませんので、ドライヤー等で乾燥する等はお勧めできません。
中心静脈カテーテル挿入部位CATHETER
これまで、日本国内では、中心静脈カテーテル挿入部位の皮膚消毒として、0.5%クロルヘキシジンアルコール、あるいは10%ポビドンヨードが推奨されてきました5)が、CDCの「CDC Guidelines for the Prevention of Intravascular Catheter-Related Infections, 2011(血管内留置カテーテル関連感染予防のためのガイドライン)」では、「中心静脈カテーテルと末梢動脈カテーテルの挿入前、およびドレッシング材交換中に、アルコールを含む0.5%を超える濃度のクロルヘキシジン製剤で皮膚を清潔にする。 クロルヘキシジンの禁忌がある場合は、ヨードチンキ、ヨードフォア、または70%アルコールを代替として使用できる6)。」とされており、中心静脈カテーテルおよび末梢動脈カテーテル挿入前とドレッシング交換時の皮膚消毒に「0.5%を超えるクロルヘキシジンアルコール製剤」を使用することが推奨されています。なお、クロルヘキシジンの濃度については、様々な議論がありましたが、海外においても日本国内においても、ポビドンヨードに比べクロルヘキシジングルコン酸塩製剤が有用であると報告されています7-10)。このような流れを受けて、病院感染対策ガイドライン(改訂第5版)11)では、「アルコールを含んだ0.5%を超える濃度のクロルヘキシジンで消毒する」ことが推奨されていますが、「クロルヘキシジンが禁忌の場合は、10%ポビドンヨードまたは70%アルコールで代用する」とされています。
カテーテル挿入部位は鎖骨下静脈を第1選択とし、なるべく清潔な環境で、手指消毒後、マキシマル・バリアプリコーション(滅菌手袋、長い袖の滅菌ガウン、マスク、帽子と全身清潔覆布)で行います。
中心静脈カテーテル挿入時、病原体の侵入門戸は輸液、三方活栓、ハブ等様々であるため、挿入部位に感染が生じていないか継続的に観察する必要があります。また、「血液透析カテーテルを除き、ポビドンヨードゲルや抗菌薬含有軟膏を使用すべきでない11)」とされています。
注射部位INJECTION
消毒用エタノール等が広く使用されています。50%イソプロパノールはMRSA等の黄色ブドウ球菌の消毒に時間がかかるため、エタノールにより肌荒れがある等の場合に限定して使用します。十分な量の薬液を用い、乾燥するまで十分な接触時間を取ることが必要です。
アルコール綿は一般細菌(栄養型)による微生物汚染がなく、濃度が高く吸着が問題にならないため、通常1週間程度使用されています。しかし、揮発により濃度低下が生じるため、開放条件が過酷な場合はさらに短期間で交換する必要があります。また、汚染した手指を容器に入れることは避け、手荒れを防ぐためにも手袋や鑷子を使用することが勧められます。
エタノールに過敏症がある場合、第一選択になる代用薬剤はイソプロパノールであり、その逆も同様と考えられます。両剤ともに過敏症の場合、次の選択はヨードホールになります。これも十分な量の薬液で消毒することが必要です。
上記の薬剤が使用できない場合、低水準消毒剤(ベンザルコニウム塩化物、クロルヘキシジングルコン酸塩等)が選択されることになります。これらの薬剤は、調製済み綿球の長期保存により消毒成分が繊維に吸着し薬液濃度が低下します。また、微生物汚染の面からも綿球の作り置きは避け、短期間に使い切れる量を十分な薬液量を用いて調製することが必要です。
創傷部位WOUND
「創傷・褥瘡・熱傷ガイドライン―1:創傷一般ガイドライン」12)では、「一般に、浅い皮膚創傷では消毒は必要ない。深い皮膚創傷でも、感染が成立していなければ消毒による除菌にとらわれることなく洗浄がすすめられる。しかし、感染に移行しつつある状態・感染が成立した状態では多少の組織障害を犠牲にしてでも消毒を行い、感染を抑えることが必要である。」とされていることから、原則的には創の洗浄が第一選択ですが、創の状態を十分に観察し、必要に応じて消毒が必要になります。なお、「創の洗浄においては十分な量の生理食塩水や蒸留水、水道水を用い、治癒を遷延させる原因物質をしっかりと洗い流すことが重要12)」となります。 一方、創面の消毒に用いる消毒剤について、ガイドラインでは「慢性皮膚創傷に対して用いるのが適当と考えられるものは①ポビドンヨード、②グルコン酸クロルヘキシジン、③塩化ベンザルコニウムなど12)」としています。
結膜嚢CONJUNCTIVITIS
0.05%以下の濃度のクロルヘキシジングルコン酸塩(赤色色素、界面活性剤を含まないもの)や、0.01~0.05%のベンザルコニウム塩化物が使用されます。また、2%以下の濃度のホウ酸水、1%以下の濃度のホウ砂水も洗浄・消毒に使用されます。
口腔ORAL
ポビドンヨードガーグルが第一選択になります。使用できない場合はオキシドール等が使用されます。
膣VAGINA
必要により0.02~0.05%ベンザルコニウム塩化物で洗浄します。
膀胱洗浄BLADDER
膀胱洗浄は、カテーテルが血塊や浮遊物で閉塞する可能性があるときに行うことがあります。泌尿器科領域における感染制御ガイドライン13)では、「膀胱洗浄が細菌尿の出現頻度を減少させるというエビデンスはない」としており、「消毒薬による膀胱洗浄は,粘膜が消毒薬に暴露される危険性があり、また、その洗浄の効果は明らかではない」ことから、「膀胱洗浄では、滅菌生理食塩水での洗浄が好ましい」としています。なお、膀胱洗浄を行う際は、医療従事者は衣類等の汚染を防ぐため、手袋、プラスチックエプロンの着用が必要です。
参考資料
- 1) CDC Guideline for Hand Hygiene in Health-Care Settings, 2002 https://www.cdc.gov/mmwr/PDF/rr/rr5116.pdf
- 2) WHO Guidelines on Hand Hygiene in HealthCare, 2009 https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/44102/9789241597906_eng.pdf;jsessionid=F50D9F5BF0B3C15F320CE4C81FBDBA1F?sequence=1
- 3) 針原 康.手術医療の実践ガイドライン(改訂第3版), 日本手術医学会誌 2019; 20 (Supplement), S84-S87
- 4)「医療法施行規則の一部を改正する省令の施行について」( 平成17年2月1日付医政発第0201004号厚生労働省医政局長通知) https://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/09/dl/s0906-3d.pdf
- 5) 国立大学医学部附属病院感染対策協議会:病院感染対策ガイドライン(第2版)2010年 http://kansen.med.nagoya-u.ac.jp/general/gl2/gl2.html
- 6) CDC Guidelines for the Prevention of Intravascular Catheter-Related Infections, 2011 https://www.cdc.gov/hai/pdfs/bsi-guidelines-2011.pdf
- 7) 安田 英人; Intensivist 7(2)2015-4, 424-427【IC24148】
- 8) 土田 敏江; 化療の領域 2011; 27(9)2121-2129【IC20865】
- 9) 森兼 啓太; INFECT CONTROL 2011; 20(12)1228-1231【IC21161】
- 10) 倉井 華子; 癌と化療 2012; 39(2)165-168【IC21630】
- 11) 国公立大学附属病院感染対策協議会: 病院感染対策ガイドライン 改訂第5版, 2017 https://kansen.med.nagoya-u.ac.jp/general/general.html
- 12) 日本皮膚科学会:創傷・褥瘡・熱傷ガイドライン―1:創傷一般ガイドライン 第2版, 2017 https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/wound_guideline.pdf
- 13) 日本泌尿器科学会:泌尿器科領域における感染制御ガイドライン, 2009 https://www.urol.or.jp/lib/files/other/guideline/12_infection_control_urology.pdf