丸石製薬株式会社

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医療関係者向情報サイト 医療ナレッジ 消毒の”きほん” 消毒剤全般

感染は、細菌、真菌、ウイルスなどの微生物が原因で起こります。その多くが身体の外から入ってきた微生物によるもので、人を介して、また器具や物品、環境などを介して起こります。微生物は目に見えないため、感染の制御は簡単ではありませんが、微生物を運ぶ手段となり得る感染経路の遮断により感染を予防することができます。

感染経路を遮断する方法の一つとして消毒剤の使用があります。しかし、消毒剤の間違った選択や使用法により、消毒したつもりでも実際には十分な効果が得られず消毒できていない、人体や環境へ悪影響を及ぼす、器具や物品を傷める、などのおそれがあり、消毒剤を使用する際は、目的にあった消毒剤を選び、適切に使用することが重要となります。

ここでは、消毒剤を適切に使用いただくために、消毒剤の選択と使用法について紹介します。

滅菌・消毒などの用語についてTERMINOLOGY

微生物を殺滅する方法には「滅菌」と「消毒」があります。ここでは用語について確認します。

表1.滅菌・消毒

滅菌
被滅菌物の中の全ての微生物を殺滅又は除去すること
消毒
病原菌など有害な微生物を除去、死滅、無害化すること

(第十七改正日本薬局方 通則40及び(参考情報)消毒法及び除染法 より)

「滅菌」は物理的・化学的に強力な作用を用いるため、材質に影響するものもあり、適用範囲は限られます(表2)。感染リスクの程度に応じて、滅菌の必要性を判断します。

「消毒」は滅菌のようにすべての微生物を殺滅または除去することはできませんが、細菌やウイルスなどの微生物の量を感染しない程度まで減少させることを目的に行います(表3)。熱に耐えうるものでは熱水や蒸気による物理的な消毒が可能ですが,人体を含めて熱処理が困難な場合には消毒剤による化学的な消毒を行います。

01.加熱法①湿熱滅菌法②乾熱滅菌法③高周波滅菌法、02.ガス法①酸化エチレン(EO)ガス滅菌法②過酸化水素による滅菌法、03.放射線法①放射線滅菌法、04.ろ過法
表2.滅菌の種類と方法

医療の現場では感染防止のため、滅菌、消毒、さらに洗浄を含めて状況に応じた方法を選択することになります。
「洗浄」では滅菌や消毒のように微生物の殺滅はできませんが、対象物に付着する汚染を物理的に除去することで付着した微生物の数を減らすことができます。また、血液や体液などの有機物による滅菌・消毒効果への影響を防ぐためにも、滅菌・消毒前に予備洗浄を行い、あらかじめ汚染を除去しておくことは重要です。

01.物理的消毒法①流通蒸気法②煮沸法③間けつ法④紫外線法、02.化学的消毒法(消毒剤による方法)
表3. 消毒の種類と方法

消毒剤の選択CHOICE

現在、日本国内では数多くの消毒剤が使用されていますが、単に効果の強い消毒剤を使えばよいというわけではなく、使用目的に応じて適切な消毒剤を選ぶ必要があります。消毒剤はそれぞれ消毒効果や適用範囲が異なるため、各消毒剤の特徴を理解し適正に使用しなければ期待する効果が得られません。また、人体への副作用や対象物への影響が生じる可能性があり注意が必要です。

消毒効果のレベル分類

消毒の分類としてSpaulding1)による消毒効果のレベル分類がよく知られています(表4)。
「高水準」は少量の細菌芽胞も含め、ほぼすべての微生物に有効なもの、「中水準」は細菌芽胞や一部のウイルスには効果が期待できないが、それ以外の微生物を殺滅できるもの、「低水準」は一般細菌(栄養型)を中心に効果が期待できるものとしています。

表4.消毒効果のレベル
第一水準:高は一般細菌(栄養型)・結核菌・細菌芽胞・脂質を含む中型サイズ・脂質を含まない小型サイズに殺滅効果が求められます。第二水準:中は一般細菌(栄養型)・結核菌・脂質を含む中型サイズ・脂質を含まない小型サイズに殺滅効果が求められます。第三水準:低は一般細菌(栄養型)・脂質を含む中型サイズに殺滅効果が求められます。

消毒剤も同様に3段階のレベルで分類されています。主な消毒剤についてSpauldingの分類に基づき分類し、その特徴を以下に示します(表5)。

「高水準消毒剤」には、アルデヒド系のグルタラールやフタラール、過酸化物系の過酢酸が分類されます。ほぼすべての微生物に有効で効果が高いものの人体や環境への消毒には適用がなく、器械・器具専用の消毒剤となります。高水準消毒剤の皮膚への付着は皮膚炎や化学熱傷の原因となり、また、蒸気は眼や呼吸器等の粘膜を刺激するため、使用時はゴーグルやマスク、防水エプロン、ゴム手袋等の保護具を着用し、吸入や接触しないよう注意します。

「中水準消毒剤」には、ハロゲンを含む次亜塩素酸ナトリウムやポビドンヨードなど、アルコール系のエタノールやイソプロパノールが分類されます。次亜塩素酸ナトリウムは人体、器械・器具類、環境、排泄物の消毒など幅広い適用を有していますが、漂白作用や金属腐食作用を有し、反応性が高く有機物や光、温度等により分解されやすいため、白色リネン類の消毒や、血液・体液・排泄物による汚染時の限定的な使用などが主な用途であり、人体へはあまり使用されません。ポビドンヨード(ヨードホール)は、ヨウ素による着色や金属腐食作用があり、器械・器具類、環境の消毒には適用がなく、人体の消毒に使用されます。エタノールやイソプロパノールなどのアルコールは速効性で、揮発するため持続性は期待できないものの残留性がありません。比較的安全性が高く、人体の消毒や器械・器具類などの清拭消毒に使用されます。

「低水準消毒剤」には、クロルヘキシジングルコン酸塩、第四級アンモニウム塩のベンザルコニウム塩化物やベンゼトニウム塩化物、両性界面活性剤のアルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩などが分類されます。低水準消毒剤は刺激性や腐食性が少なく、人体、器械・器具類、環境など広い範囲で使用されますが、消毒効果は低いため、アルコールや界面活性剤を配合した製剤も販売されています。

表5.主な消毒剤の分類と特徴
消毒剤 特徴
高水準 グルタラール
フタラール
過酢酸
芽胞やB型肝炎ウイルスを含むほとんどすべての微生物に効果を示す
(フタラールはバチルス属(枯草菌など)の芽胞に抵抗性を示す)
器械・器具専用で人体や環境には使用できない
中水準 次亜塩素酸ナトリウム ウイルスに有効であるが、芽胞や結核菌では十分な効果が得られない場合がある
反応性が高く、有機物、光、温度等により分解されやすい
酸性物質との混合で有害な塩素ガスを発生する
金属や布に対して腐食作用がある
漂白・脱色作用があり、色柄のリネン類には適さない
アルコール系
 エタノール
 イソプロパノール
速効性で、揮発後に残留性・持続性がない
比較的安全性が高く、人体にも使用可能だが、粘膜、創傷部位に刺激性がある
揮発により濃度が低下する
引火性があり、電気メスの引火による熱傷事故の報告がある
一部の合成樹脂製品・ゴム製品等を変質させる
ヨードホール
 ポビドンヨード
 (ヨードホール)
皮膚、粘膜に対して低刺激性で人体の消毒に適している
ヨード過敏症、大量・長時間接触による接触性皮膚炎の報告がある
チオ硫酸ナトリウムでの脱色により消毒効果が消失する
低水準 クロルヘキシジングルコン酸塩 臭気、刺激性、腐食性等が少なく、広い範囲に使用可能である
膣、膀胱、口腔等の粘膜面には使用禁忌である(ショック症状の発現)
綿球等に吸着され、濃度低下しやすい
第四級アンモニウム塩
 ベンザルコニウム塩化物
 ベンゼトニウム塩化物
臭気、刺激性、腐食性等が少なく、広い範囲に使用可能である
粘膜の消毒に使用可能である
陰イオン界面活性剤(石けん)と反応し効果が減弱する
綿球等に吸着され、濃度低下しやすい
両性界面活性剤
 アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩
臭気、刺激性、腐食性等が少なく、広い範囲に使用可能である(ただし、脱脂作用が強いため、主に器具や環境の消毒に使用される)
1分子中に陽イオン(殺菌力)と陰イオン(洗浄力)を有する両性の界面活性剤である
高濃度(0.2~0.5%溶液)で結核領域の器具や環境などの消毒に使用される
綿球等に吸着され、濃度低下しやすい

消毒剤の微生物への効果

微生物の種類により、消毒剤に対する感受性が異なります。消毒剤を使用する場合は、目的とする微生物の種類とあわせ、対象物の種類や材質、感染リスク等を考慮し消毒剤を選択します。主な消毒剤における有効な微生物について表6に示します。

表6.主な消毒剤における有効な微生物

消毒剤の適用範囲

消毒剤の作用は一種の化学反応であり、一般的に効果の強い消毒剤では化学的な作用も強く、対象物への影響も大きくなるため適用範囲が限られます。主な消毒剤の適用範囲を表7に示します。

表7.主な消毒剤の適用範囲

消毒剤の使用法USAGE

消毒剤の効果に関わる3つの基本条件(表8)

消毒剤の効果に関わる基本条件は「消毒剤の使用濃度」「消毒剤の作用温度」「消毒時間」の3条件であり、それぞれ密接な関連性をもっています。また、3条件のひとつでも条件が不足すると、消毒効果を十分に発揮させることができません。

表8.消毒剤の効果に関わる3条件
①消毒剤の使用濃度、②消毒剤の作用温度、③消毒時間
①消毒剤の使用濃度

消毒剤は一般的に濃度が高いほど消毒効果が強くなりますが、化学的な作用も強く対象物に与える影響も大きくなるため、消毒剤の適用濃度は消毒効果と対象物への影響のバランスを考えて設定されています。また、至適濃度を有する消毒剤もあり、例えば、エタノールで清拭消毒(接触時間の短い消毒法)を行う場合には消毒用エタノール(約80vol%)の濃度で用いることが勧められます2)

消毒剤を実際に使用する場合は、揮発や洗浄水による希釈、有機物の混入、経時的な有効成分の化学変化など、種々の要因が重なりあって消毒剤の濃度を低下させ、消毒効果を弱めることがあるので、消毒終了時点において有効濃度を確保している必要があります。

②消毒剤の作用温度

消毒剤の作用は一種の化学反応であり、一般に作用温度が高くなれば効果が強く、作用温度が低くなれば効果が弱くなります。通常、消毒剤の作用温度は20~25℃3)になりますが、冬場などで薬液の温度が低すぎると消毒速度の低下により消毒時間が延長し5-7)、期待する効果が得られない場合があります。なお、温度が高くなると効果が弱くなるものもあり、成分の分解により安定性が低下するもの(グルタラールや次亜塩素酸ナトリウムなど)や、揮発により濃度が低下するもの(アルコール類(エタノールやイソプロパノールなど))などがあります。

③消毒時間

消毒剤が効果を発揮するには、微生物に対してある程度の接触時間が必要です。微生物を瞬時に殺滅できる消毒剤は存在せず、速効性があるとされる消毒用エタノールや70%イソプロパノールでも10~15秒間の接触時間を要します4-9)

実際の消毒時には、微生物の数や血液などの有機物、吸着等の消毒効果に影響を及ぼす因子の存在により消毒効果の得られる時間が延長する可能性があり、対象物と消毒剤を接触させる時間は余裕を持って設定します。製剤の添付文書等に消毒時間の記載がない場合、浸漬消毒であれば30分間浸漬10)を目安とします。

消毒効果に影響を及ぼす因子

表9に示すような因子により、消毒効果に影響を及ぼすことがあり、消毒前にこれらの因子による影響をできるだけ減らしておきます。

表9.消毒効果に影響を及ぼす因子
①微生物の数、②血液などの有機物、③化学反応、④pH(水素イオン濃度)、⑤吸着など
①微生物の数による影響

消毒前の微生物の数により微生物の殺滅時間に差が生じます。消毒前の微生物の数が多いと微生物の殺滅に長時間必要となり、消毒前の微生物の数が少ないほど短時間で微生物の数をゼロに近づけることができます。

②血液などの有機物による影響

消毒対象物が血液や吐物などの有機物にひどく汚染されている場合、予備洗浄により付着している汚染物をある程度除去することで消毒効果への妨害作用を防ぐことができます。また、予備洗浄で微生物数を減らすこともでき、期待する消毒効果を得ることができます。

このように、消毒前の予備洗浄は重要な役割を持っており、一般に洗浄してから消毒剤を作用させることが消毒操作における基本的な考え方となります(表10)。

表10.消毒の5ステップ(洗浄・消毒における基本操作)
1.水洗、2.洗浄(洗浄剤使用)、3.水洗、4.消毒(消毒剤使用)、5.水洗 ※1.2.3.は予備洗浄です。汚染の程度が少なければ、1.2.3.の操作を順次省略できます。※2.洗浄で洗浄剤を使用した場合は、3.水洗を省くことはできません。※4.で皮膚消毒を行う場合は5.水洗を省略するのが一般的な操作です。
③化学反応による影響

塩素系やヨウ素系、過酸化物系の消毒剤は化学反応力が強く、消毒対象物の素材そのものを酸化・腐食することは一般によく知られています。

次亜塩素酸ナトリウムは金属器具を腐食し、血液やリネン類などの有機物に対しても強力な酸化作用を呈します。リネン類は腐食を受け生地が弱り、多量の血液や汚物の存在により効果が減弱します。また、酸性の洗浄・漂白剤、アルコール製剤、シアヌール酸系の製品などと混合(併用)すると有害な塩素ガスが発生して危険なため、一緒に使わない(混ぜない)ようにします。

陽イオンを持つベンザルコニウム塩化物やクロルヘキシジングルコン酸塩、両性界面活性剤(アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩)などは、石けん類により消毒効果が減弱されるため、石けん成分を洗い落としてから使用します。

④pH(水素イオン濃度)による影響

pHの影響を受けやすい消毒剤として、グルタラールがあります。グルタラールは、アルカリ性で消毒効果が発揮されるものの安定性が悪く、長期間(3年程度)安定な酸性の状態では十分な消毒効果が期待できません。そのため、グルタラール製剤は安定性のよい酸性のグルタラール原液で保管し、使用時に添付の緩衝化剤を加えてアルカリ性とする用時調製の組み合わせ医薬品となっています。

クロルヘキシジングルコン酸塩はアルカリ性になると沈殿が生じ、消毒効果も減弱します。

⑤吸着による影響

消毒剤は一般に、金属やガラスなど硬質のものには吸着されにくく、綿球やリネン類などの繊維、生ゴム、プラスチックなどに吸着されやすいといわれます。

低濃度で使用される低水準消毒剤(ベンザルコニウム塩化物、クロルヘキシジングルコン酸塩など)は吸着による影響を受けやすく、調製済み綿球の長期保存により消毒成分が繊維に吸着し薬液濃度が低下する11)との報告があります。また、微生物汚染12,13)の面からも、低水準消毒剤の綿球の作り置きは避け、短期間(24時間以内14))に使い切れる量を十分な薬液量を用いて調製するようにします。

参考資料

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  • 7) 高橋信明 他:J Jpn Soc Hosp Pharm 1994;30:1317-20.[IC09281]
  • 8) 邱 龍祥 他:J Jpn Soc Hosp Pharm 1994;30:1433-7.[IC09056]
  • 9) 白石 正 他:環境感染誌 1998;13:108-12.[IC09292]
  • 10) 「感染症法に基づく消毒・滅菌の手引きについて」(平成30年12月27日付 健感発1227第1号 厚生労働省健康局結核感染症課長通知)新しいタブでページが開きます https://www.mhlw.go.jp/content/000548441.pdf
  • 11) 鈴木一市 他:病院薬学 1983;9(4):339-42.[IC08289]
  • 12) Oie S,et al:Am J Infect Control 1996;24(5):389-95.[IC08408]
  • 13) Oie S,et al:Biol Pharm Bull 1997;20(6):667-9.[IC07944]
  • 14) 尾家重治:シチュエーションに応じた消毒薬の選び方・使い方,じほう,2014:55-64.