消毒NAVI「内視鏡」
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現場でお困りの消毒方法について、尾家 重治先生(山陽小野田市立 山口東京理科大学 薬学部 教授)に解説していただきました。
なお、器具・物品や消毒剤等の取り扱いにつきましては、各製品の取扱説明書等をご確認ください。
内視鏡の消毒方法
用いる消毒薬
内視鏡は観血的処置に用いられるため、ウイルスや結核菌など種々の微生物で汚染を受ける可能性がある。したがって、内視鏡の消毒には、汚れ(有機物)による効力低下が小さく、かつ幅広い抗菌スペクトルを示す消毒薬を用いる必要がある。グルタラール、フタラールおよび過酢酸などの高水準消毒薬が適している。
高水準消毒薬の取り扱い者の有害作用
●粘膜への刺激
高水準消毒薬の蒸気は眼や呼吸器系の粘膜を刺激して、結膜炎、鼻炎、喘息などの原因になる1-11)。したがって、いずれの高水準消毒薬の使用にあたっても、十分な換気が必須である。用手法の場合はふた付き容器を用いる。眼より下の位置、たとえば内視鏡自動洗浄消毒装置の防水カバー付近に換気装置(ドラフト)を設置する12)。また、窓の開放も有効である(図1)。さらに、高水準消毒薬を吸着できるマスクの使用も勧められる(図2)。
●付着で化学熱傷
高水準消毒薬が皮膚へ付着すると化学熱傷(損傷)が生じる。また、眼への飛入では失明する可能性すらある13,14)。したがって、高水準消毒薬の取扱いでは、保護メガネやフェイスシールド、ニトリル製手袋および防水エプロンやガウンなどの着用が必須である(図2)。
内視鏡への残留による患者の有害事象
高水準消毒薬がすすぎ不十分のために内視鏡に残留すると、患者に有害事象が生じる。直腸結腸炎、大腸炎、血液混入の下痢、食道の化学熱傷(損傷)、腐食性咽喉頭炎などの報告がある15-21)。したがって、高水準消毒薬の使用後には十分なすすぎが必須である。また、フタラールで消毒後の膀胱鏡を用いてアナフィラキシーショックが生じた事例がある22)。このため、膀胱鏡の消毒へのフタラールの使用は差し控えるのが望ましい。グルタラールなどを用いる。
高水準消毒薬の特徴
高水準消毒薬の特徴を表1に示した。また、表2に高水準消毒薬の使用期限(めやす)を示した。
消毒薬 | 利点 | 欠点 | 備考 |
---|---|---|---|
グルタラール | ・材質を傷めにくい ・比較的に安価 |
刺激臭が強い | 0.05 ppm 以下の環境濃度で用いる |
フタラール | ・材質を傷めにくい ・緩衝化剤の添加が不要 |
蛋白(汚れ)と結合すると、すすぎが行いにくい(残留毒性) | 内視鏡自動洗浄消毒装置での使用が望ましい |
過酢酸 | ・殺菌力が強い ・カセット方式のため、 薬液充填時での蒸気曝露がない |
材質劣化作用 | 10 分間を超える浸漬を避ける |
消毒薬 | 使用法 | 使用期限 | 使用期限を左右する因子 |
---|---|---|---|
グルタラール | 用手法 | 2 %製品:7~10日間 3 %製品 :21~28日間 3.5 %製品:28日間 |
・経時的な分解 ・水による希釈 |
内視鏡自動洗浄消毒装置 | 2 %製品:20回もしくは7~10日間 3 %製品 :40回もしくは21~28日間 3.5 %製品:50回もしくは28日間 |
||
フタラール | 内視鏡自動 洗浄消毒装置*2 | 30~40回 | ・水による希釈 |
過酢酸 | 内視鏡自動 洗浄消毒装置*3 | 25回もしくは7~9日間 | ・経時的な分解 ・水による希釈 |
- *1 グルタラールや過酢酸では、緩衝化剤の添加後
- *2 十分なすすぎを行うという観点から、内視鏡自動洗浄消毒装置での使用が望ましい。
- *3 長時間浸漬による金属腐食を避けるという観点から、内視鏡自動洗浄消毒装置での使用が望ましい。
「内視鏡洗浄・消毒の手順(例)」はこちら
引用文献
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