丸石製薬株式会社

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脱分極性筋弛緩剤 スキサメトニウム塩化物水和物(別名:サクシニルコリン)
貯法:凍結を避け、5℃以下で保存

医療関係者向情報サイト 医療ナレッジ 教えて!周術期の薬剤 教えて!筋弛緩薬 脱分極性筋弛緩剤 スキサメトニウム塩化物水和物

覚えておきたい!3つのポイント

  • 1

    精神神経科における電気けいれん療法(ECT)の際の筋弛緩

  • 2

    作用発現が速く、作用消失も速い

  • 3

    副作用が多いので注意

更新日:2024年3月7日 監修医にいただいたコメントは作成時点(2024年3月7日時点)のものとなります。
ご使用にあたっては各製品の電子添文をご確認ください。
■警告
◎本剤による呼吸停止について
  • ・本剤の使用にあたっては、必ずガス麻酔器または人工呼吸器を準備してください。使用時は呼吸停止を起こすことが非常に多いので、人工呼吸や挿管に熟練した医師によってのみ使用するようお願いします。
  • ・本剤によって起こる呼吸停止は、注入後極めて速やかなので、人工呼吸の時期を失しないように、事前に設備その他の準備・点検を十分に行ってください。
■禁忌
  • ・本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
  • ・急性期後の重症の熱傷、急性期後の広範囲性挫滅性外傷、四肢麻痺のある患者
    (血中カリウムの増加作用により、心停止を起こすおそれがあります)

主に電気けいれん療法(ECT)で使用

作用機序

スキサメトニウム塩化物水和物(以下、スキサメトニウム)は、アセチルコリン2分子が結合した構造をしています。アセチルコリンと同じように神経筋接合部のニコチン性アセチルコリン受容体に結合しますが、アセチルコリンとは異なり真性コリンエステラーゼにより分解されないため、終板の脱分極を持続させます。その間、一過性の筋収縮(筋線維束攣縮)を起こすことがありますが、その後は終板や筋膜は電気的な不活化状態となり、筋弛緩作用が発揮されます。

効能・効果

  • 麻酔時の筋弛緩、気管挿管時・骨折脱臼の整復時・喉頭痙攣の筋弛緩、精神神経科における電撃療法の際の筋弛緩
    ※電撃療法は、現在は「電気けいれん療法(ECT)」と言われます。
  • 腹部腫瘤診断時
よく使われるシーン、
使用頻度の高い手術について
現在、スキサメトニウムは主に電気けいれん療法(ECT)で使用します。緊急手術時の迅速導入は適応ですが、実際のところ、迅速導入にもロクロニウムの高用量投与が用いられています。
ECT以外では、抜管後の喉頭痙攣時に用いられます。特にスガマデクスで拮抗後の喉頭痙攣はよい適応になるでしょう。

使用方法

投与経路

静脈内投与

用法・用量

成人
間歇的投与法:スキサメトニウムの脱水物として、1回10~60mg(1mg/kg1~3)を静脈内注射します。この用量で筋弛緩が得られない時は、筋弛緩が得られるまで適宜増量します。
持続点滴用法:0.1~0.2%となるように生理食塩液または5%ブドウ糖液に溶かし、持続注入します。通常2.5mg/分ぐらいの速さで注入します。
乳幼児および小児
静脈内注射の場合1mg/kgを、静脈内注射が不可能な場合は2~3mg/kgを筋肉内注射します。

肥満患者さんへの投与量はどう計算したらよいですか?
理想体重?それとも実体重?

実体重換算のスキサメトニウムを投与しても、正常体重患者と比較して、作用が延長することはありません。これには肥満患者での細胞外液量増加による分布用量の増大や、血清コリンエステラーゼ活性の亢進が関連すると考えられています。

投与の準備

薬剤調製時の注意
  • 生理食塩液または5%ブドウ糖液で希釈した0.1~0.2%溶液は調製後できるだけ速やかに使用してください。また、希釈した溶液を保存する場合は、本剤が添加してある旨、容器に明記するなど誤用のないように注意してください。
  • 静脈麻酔剤と混合すると沈殿を生じることがあるので、 混合注射を避けましょう。

成人では原液投与、小児では体重に合わせて、投与しやすいように生理食塩液で希釈もします。

薬剤投与時の注意

筋肉内注射にあたっては、組織・神経等への影響を避けるため、下記の点に注意してください。

  • 神経走行部位を避けるよう注意すること。
  • 繰返し注射する場合には、たとえば、左右交互に注射するなど、注射部位をかえて行うこと。
  • 注射針を刺入したとき、激痛を訴えたり、血液の逆流をみた場合は、直ちに針を抜き、部位をかえて注射すること。

薬物動態

  • 代謝
    スキサメトニウムは、血漿コリンエステラーゼにより速やかに分解され、コリンとサクシニルモノコリンになり、サクシニルモノコリンはコリンとコハク酸に分解されます。

作用発現時間・作用持続時間4)

作用発現時間:0.8~1.4分
作用持続時間:6~11分

使用時の流れ:迅速導入の場合

迅速導入は「迅速気管挿管」と呼ばれることもあり、英語では「Rapid Sequence Induction or Intubation」と言います。フルストマックなど誤嚥の危険性が高い患者に行いますが、挿管困難が予測される症例では行いません。
ちなみに、似たような言葉に「急速導入」がありますが、こちらは、マスク換気で十分に酸素化してから入眠と気管挿管を行う、通常の麻酔導入法のことです。
事前準備・注意について
  • スキサメトニウムは毒薬です。正確な管理、保管が必要です。
  • 誤薬を防ぐために、スキサメトニウムを吸引するシリンジサイズを、施設の中で決めておきましょう。ラベリングも確実に。
  • 筋弛緩薬へのアレルギーを有する方は、薬液に触れないよう手袋をしてご準備を。
  • マスクで酸素吸入(3分以上)
  • フルストマックの症例などでは、スキサメトニウムによる筋線維束攣縮に起因した腹圧上昇を抑えるために、プレキュラリゼーション法が応用されます。
    酸素吸入下に、まず筋弛緩作用を起こさない程度の少量のロクロニウム(0.03mg/kg)を静脈内投与します。この3分後に麻酔導入とスキサメトニウム(1.5mg/kg)の投与を行い、その後は迅速導入と同様の手順です。

  • 鎮静薬の投与
  • 就眠後、すぐにスキサメトニウムを投与
  • マスク換気は行わず、輪状軟骨圧迫を行う
  • 薬剤投与開始から1分後に気管挿管
  • 通常より多い空気ですぐにカフを膨らませる

使用する上での重要な注意点

スキサメトニウムの分解能または排泄能が低い患者あるいは感受性が高い患者の場合には、投与量及び投与速度に注意し、完全に回復するまで監視を行ってください。
異型コリンエステラーゼ血症の患者では、スキサメトニウムの作用が数時間に及ぶことがあります。筋弛緩効果が遷延する場合には、筋弛緩モニターで経過を観察してください。
持続投与により、脱分極型の作用が非脱分極型の作用に似てくることがあります(PhaseⅡブロック)。投与時間が長くなる場合には、筋弛緩モニタリングで評価しましょう。

副作用

重大な副作用

ショック・アナフィラキシー、悪性高熱症、気管支痙攣、遷延性無呼吸(持続性呼吸麻痺)、心停止、呼吸抑制、横紋筋融解症
詳細やその他の副作用については製品の電子添文をご確認ください。
  • 悪性高熱症の誘発薬として、吸入麻酔薬とスキサメトニウムが挙げられています。悪性高熱症の家族歴やセントラルコア病などの関連疾患を有する患者では、投与を避けましょう。
  • 正常患者に投与しても、血清カリウム値は一時的に0.5mEq/Lほど上昇しますが、アセチルコリン受容体のアップレギュレーションが生じている病態、たとえば広範囲の熱傷や麻痺患者などでは、心室細動を生じるほどの高カリウム血症を誘発しますので投与禁忌となっています。
  • 心臓洞結節のムスカリン受容体刺激により徐脈や心停止が起こり得ます。反復投与時や小児に多く観察されます。
  • 術後に筋肉痛は約半数に生じます。不規則な筋攣縮による筋膜障害に起因します。

併用薬

併用禁忌

なし

併用注意

  • 併用により重篤な不整脈を起こすおそれがある薬剤
    ジギタリス強心配糖体(ジゴキシン、メチルジゴキシン 等)
  • スキサメトニウムの作用が増強したり、持続して遷延性無呼吸(持続性呼吸麻痺)を起こすことがある薬剤
    コリンエステラーゼ阻害作用を有する薬剤(アンベノニウム塩化物、ネオスチグミン臭化物、シクロホスファミド 等)
    ロクロニウム
  • スキサメトニウムの筋弛緩作用が増強するので、併用する場合にはスキサメトニウムを減量する必要がある薬剤
    デスフルラン、イソフルラン
  • スキサメトニウムの作用が増強または遷延することがある薬剤
    アプロチニン、ゾピクロン、エスゾピクロン、リンコマイシン系抗生剤
  • スキサメトニウムの作用が減弱することがある薬剤
    イリノテカン塩酸塩
  • これらの抗生剤を投与した外科手術後に、突発的に呼吸困難を起こすことがある薬剤
    アミノグリコシド系抗生剤

拮抗薬

拮抗薬はありません。
ネオスチグミン臭化物のようなコリンエステラーゼ阻害作用を持つ拮抗薬は、逆にスキサメトニウムの分解が阻害されて作用が増強するため、使ってはいけません。
ちなみに、PhaseⅡブロックのときにはネオスチグミンで拮抗することができます。

取り扱い・管理

毒薬のため、他の医薬品と区別し、施錠できる保管庫に保管します。
数量を管理する必要があります。
毒薬の受払い簿などを作成し、帳簿と在庫現品の間で齟齬がないよう定期的に点検する等、適正に保管管理してください。
毒薬には廃棄についての特別な規定はありません。
注意事項等情報については電子添文をご参照ください。
<参考資料>
1) ANN Ferguson, D.R.Bevan: Anaesthesia 1981; 36(7): 661-6.
2) M.J.Curran, et.al.: British Journal of Anaesthesia 1987; 59(8): 989-94.
3) M.P.Mehta, et.al.: European Journal Anaesthesiology 1988; 5(1): 15-21.
4) 橋本 敬太郎、他監訳: グッドマン・ギルマン薬理書・第13版[上巻], 廣川書店, 2022, 284.