丸石製薬株式会社

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副交感神経興奮剤 ネオスチグミンメチル硫酸塩・アトロピン硫酸塩水和物
貯法:室温保存

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覚えておきたい!3つのポイント

  • 1

    ネオスチグミンメチル硫酸塩とアトロピン硫酸塩水和物を2:1の割合で併用します

  • 2

    「深い筋弛緩状態」や「緊急時の筋弛緩状態」からの回復には効果不十分

  • 3

    ムスカリン作用による徐脈、気管支痙攣、悪心、嘔吐、分泌物亢進に注意

更新日:2024年3月7日 監修医にいただいたコメントは作成時点(2024年3月7日時点)のものとなります。
ご使用にあたっては各製品の電子添文をご確認ください。
■警告
ロクロニウム臭化物(以下、ロクロニウム)の作用の拮抗に本剤を静脈内注射する時は、緊急時に十分対応できる医療施設で、本剤の作用および使用法について熟知した医師のみが使用してください
■禁忌
  • ・消化管又は尿路の器質的閉塞のある患者(蠕動運動を亢進させ、また排尿筋を収縮させる作用を有します。)
  • ・本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
  • ・迷走神経緊張症の患者(迷走神経興奮作用を有します。)
  • ・脱分極性筋弛緩剤(スキサメトニウム塩化物水和物(以下、スキサメトニウム))を投与中の患者
  • ・閉塞隅角緑内障の患者(抗コリン作用により眼圧が上昇し、症状を悪化させることがあります。)
  • ・前立腺肥大による排尿障害のある患者(抗コリン作用による膀胱平滑筋の弛緩、膀胱括約筋の緊張により、排尿困難を悪化させるおそれがあります。)
  • ・麻痺性イレウスの患者(抗コリン作用により消化管運動を抑制し、症状を悪化させるおそれがあります。)

副作用防止のため、アトロピンを併用

作用機序

1. ネオスチグミンメチル硫酸塩(以下、ネオスチグミン)
アセチルコリンを分解するコリンエステラーゼと結合して一時的に不活性化し、アセチルコリンの分解を抑制することでアセチルコリンを増加させ、さらにアセチルコリン様の作用を示すことにより、ロクロニウムの骨格筋における遮断作用と拮抗します。
2. アトロピン硫酸塩水和物(以下、アトロピン)
ネオスチグミンの副作用である徐脈や分泌増加などのムスカリン様作用を防止するため、アトロピンを併用します。アトロピンは、アセチルコリンやムスカリン様薬物に対して、ムスカリン性アセチルコリン受容体で競合的に拮抗作用をあらわします(抗コリン作用)。この作用は、平滑筋、心筋および外分泌腺のムスカリン受容体に対して特に選択性が高く、消化管、胆管、膀胱、尿管等の攣縮を緩解するとともに、唾液、気管支粘膜、胃液、膵液等の分泌を抑制します。心臓に対し、低用量では通常徐脈があらわれますが、高用量では心拍数を増加させます。

効能・効果

非脱分極性筋弛緩剤の作用の拮抗
よく使われるシーン、
使用頻度の高い手術について
ネオスチグミン・アトロピンは、ベンジルイソキノリン系筋弛緩薬を使用している海外では未だ使用されていますが、ロクロニウムのみを使用している本邦では使用されなくなっています。

使用方法

投与経路

静脈内投与

用法・用量

成人
1回、ネオスチグミンとして0.5~2.0mg、アトロピンとして0.25~1.0mgを緩徐に静脈内注射します。なお、年齢、症状により適宜増減してください。
また、特別な場合を除き、ネオスチグミンとして5mg、アトロピンとして2.5mgを超えて投与しないでください。

肥満患者さんへの投与量はどう計算したらよいですか?
理想体重?それとも実体重?

理想体重換算量が推奨されます。しかし、実体重換算量を投与しても、肥満患者では正常体重患者に比べて拮抗時間が延長します。追加投与量の必要性の評価も含めて、筋弛緩モニタリングによる観察は必須です。

投与の準備

無色澄明の液であり、用時溶解の必要はありません。
緩徐に静脈内注射してください。

薬物動態

1. ネオスチグミン
  • 半減期は0.015~0.14時間(分布相)および0.38~2時間(ヒトでの試験成績:0.65~1.12時間(消失相))です。
  • クリアランスおよび分布容積は、それぞれ11mL/min/kgおよび0.53~1.56L/kgです。
  • 腎疾患では半減期は延長します。
  • ヒト血清アルブミンへの結合率は15~25%です。
  • 中枢神経系への移行は少ないです。
  • 胎盤を通過します。
  • 主排泄経路は尿中であり、約80%が24時間以内に尿中に排泄され、投与量の約50%が未変化体、15%が3-hydroxyphenyltrimethylammoniumとなっています。
  • 生体内ではコリンエステラーゼや非特異的エステラーゼより加水分解を受け、肝臓においても代謝されます。
  • 乳汁への移行はとても少ない量です。
2. アトロピン
  • 血中から速やかに消失し(半減期は2~5時間)、全身に分布します。
  • クリアランスおよび分布容積は、それぞれ6.4~8mL/min/kgおよび1~6L/kg(ヒトでの試験成績:クリアランス6.4mL/min/kg、分布容積 1L/kg)です。
  • 血漿蛋白結合率は約50%です。
  • 血液-脳関門・血液-胎盤関門を通過します。
  • 投与後4時間以内に投与量の半分が、24時間以内に約90%が尿中に排泄されます。呼気中には排泄されず、糞中への排泄は0.5%以下です。
  • 尿中に投与量の約半分が未変化体、1/3以上が未知代謝物、 2%以下がトロパ酸として排泄されます。
  • 痕跡程度の量が乳汁中、その他種々分泌液中に検出されます。

作用発現時間・作用持続時間

筋弛緩からの回復時間:TOFカウント4まで自然回復後に拮抗した場合、約15分で至適回復が得られま1)
作用持続時間:約60分2)
※筋弛緩からの回復時間は、個々の症例によってばらつきがあります。

使用時の流れ

事前準備・注意について
劇薬は、他の医薬品等と区別して、貯蔵・陳列する必要があります。なお、劇薬は、毒薬のように、とくに鍵のかかる場所に保管する必要はありません。
ロクロニウムを用いた手術終了時
  • 母指内転筋でのTOF刺激による反応を視覚的もしくは触覚的に評価
  • TOFカウント
    4未満
    TOFカウント
    4
  • 麻酔を維持して、待機
    ネオスチグミン0.5~2.0mg
    アトロピンとして0.25~1.0mgを投与
  • 筋弛緩モニターで再評価
    10〜20分間効果を確認
    (TOF比>0.9)
TOF刺激、TOFカウント、筋弛緩モニターに関しては、
こちらをご覧ください。

使用する上での重要な注意点

筋無力症状の重篤な悪化、呼吸困難、嚥下障害(クリーゼ)をみることがあるので、このような場合には、臨床症状でクリーゼを鑑別し、鑑別が困難な場合には、エドロホニウム塩化物(以下、エドロホニウム)2mgを静脈内注射して、クリーゼを鑑別してから次の処置を行ってください。
  • コリン作動性クリーゼ:腹痛、下痢、発汗、唾液分泌過多、縮瞳、線維束攣縮等の症状が認められた場合や、エドロホニウムを投与したときに症状が増悪ないし不変の場合には、直ちに投与を中止し、アトロピン0.5~1mgを静脈内注射してください。さらに、必要に応じて人工呼吸又は気管切開等を行い気道を確保してください。
  • 筋無力性クリーゼ:呼吸困難、唾液排出困難、チアノーゼ、全身の脱力等の症状が認められた場合や、エドロホニウムを投与したときに症状の改善が認められた場合は、ネオスチグミンの投与量を増加してください。
過量投与により、それぞれの成分に基づく下記症状があらわれることがありますので、その場合には適切に処置を行ってください。
  • ネオスチグミン
    徴候、症状:徐脈、コリン作動性クリーゼ(腹痛、下痢、発汗、唾液分泌過多、縮瞳、線維束攣縮等)があらわれることがあります。
    処置:ただちに投与を中止し、アトロピン0.5~1mgを静脈内注射する。さらに、必要に応じて気管挿管等により気道を確保し、人工呼吸を行ってください。
  • アトロピン
    徴候、症状:頻脈、心悸亢進、口渇、散瞳、近接視困難、嚥下困難、頭痛、熱感、排尿障害、腸蠕動の減弱、不安、興奮、せん妄等を起こすことがあります。
    処置:重度な抗コリン症状には、コリンエステラーゼ阻害薬ネオスチグミンの0.5~1mgを筋注する。必要に応じて2、3時間ごとに繰り返してください。
神経筋接合部内のアセチルコリン濃度を高めての競合による間接的拮抗のため、深い筋弛緩状態では拮抗作用が得られません。必ずTOFカウント4を確認してから投与してください。また、様々な因子により回復時間は変化するため、筋弛緩モニタリングによる評価が必要です。
天井効果があり、ネオスチグミン0.06~0.08mg/kg以上の量を投与しても、さらなる拮抗効果は得られません。

副作用

重大な副作用

コリン作動性クリーゼ、不整脈、ショック、アナフィラキシー
詳細やその他の副作用については製品の電子添文をご確認ください。
投与初期はアトロピンの作用により一過性に心拍数は増加し、その後、ネオスチグミンのムスカリン作用にて減少します。徐脈や房室ブロックなどの不整脈も発現しやすくなります。
気管支喘息患者では発作を誘発しますので、投与は控えてください。
術後に無気肺などの呼吸器合併症が増加する可能性があります。

併用薬

併用禁忌

スキサメトニウム:スキサメトニウムの作用を増強します。

併用注意

  • コリン作動薬(アセチルコリン等)
    相互に作用が増強されます。
  • 副交感神経抑制剤(アトロピン、スコポラミン臭化水素酸水和物、ブトロピウム臭化物等)
    副交感神経抑制剤はコリン作動性クリーゼの初期症状を不顕性化し、本剤の過剰投与を招くおそれがありますので、副交感神経抑制剤の常用は避けてください。
  • 抗コリン作用を有する薬剤(三環系抗うつ剤、フェノチアジン系薬剤、イソニアジド、抗ヒスタミン剤)
    抗コリン作用(口渇、便秘、麻痺性イレウス、尿閉等)が増強することがあります。併用する場合には、定期的に臨床症状を観察し、用量に注意してください。
  • MAO阻害剤
    抗コリン作用が増強することがあります。異常が認められた場合には、本剤を減量するなど適切な処置を行ってください。
  • ジギタリス製剤(ジゴキシン等)
    ジギタリス中毒(嘔気、嘔吐、めまい、徐脈、不整脈等)があらわれることがあります。定期的にジギタリス中毒の有無、心電図検査を行い、必要に応じてジギタリス製剤の血中濃度を測定し、異常が認められた場合には、ジギタリス製剤の減量もしくは投与を中止してください。
  • プラリドキシム(ヨウ化メチル(PAM))
    混注により本剤の薬効発現が遅延することがあります。 併用する場合には、混注を避け定期的に臨床症状を観察し、用量に注意してください。

取り扱い・管理

他の医薬品と区別して、貯蔵・陳列する必要があります。
なお、施錠は不要です。
注意事項等情報については電子添文をご参照ください。
<参考資料>
1) 嶋 武, 橋本保彦, 松川 周, 他: 麻酔 1977; 26: 753-757.
2) 嶋 武, 橋本保彦, 塩沢 茂, 他: 麻酔 1972; 21: 427-431.