丸石製薬株式会社

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医療関係者向情報サイト 医療ナレッジ 感染症情報 多剤耐性緑膿菌(MDRP)

概要SUMMARY

多剤耐性緑膿菌(multiple‐drug‐resistant Pseudomonas aeruginosa:MDRP)という用語は1970年から使用されていますが、 現在の感染症法で薬剤耐性緑膿菌感染症の定義は、「広域β-ラクタム剤、アミノ配糖体、フルオロキノロンの3系統の薬剤に対して耐性を示す緑膿菌による感染症」です1)

感染症法上の5類感染症定点把握疾患に定められており、指定届出機関(全国約500カ所の基幹定点医療機関)より毎月報告がなされています2)

1. 微生物

多剤耐性緑膿菌のイメージ図
(CDCホームページ3)より)
緑膿菌はブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌に細菌学上分類され、水回りなどの湿潤な環境に生息します。この緑膿菌が様々な抗菌剤に対して抵抗力(耐性)を獲得したものを多剤耐性緑膿菌と言います。健常者が感染を起こすことはほとんどありませんが、感染防御能力が低下した患者で広域抗菌薬を使用した術後などに感染が起こります。

緑膿菌はペニシリンなどに対してもともと耐性を示します。後から獲得する耐性の仕組みは以下のようなものとなります。2,4)
・DNAジャイレースやトポイソメラーゼなどの抗菌薬の標的たんぱく質が変異することで抗菌薬が結合できなくなります(フルオロキノロン耐性)。
・D2ポリン ※1の減少など細胞外膜の変化により抗菌薬が取り込まれないようにします(イミペネム耐性)。
※1ポリン:グラム陰性菌には外膜があります。外膜にはポリンという外界からの物質の取り込み口があり、このポリンから栄養も取り込んでいますが、抗菌薬の多くもポリンを通過して菌体に入ります。そのため、ポリンの透過性を低下させたり減少させたりして抗菌薬を取り込まないようにすることがあります。
・薬剤能動排出ポンプ ※2の機能亢進により抗菌薬を排出します(フルオロキノロン耐性、その他の薬剤耐性、消毒薬抵抗性)。
※2排出ポンプ:細菌は不要なものや有害なものを排出ポンプによって排出しています。なかには複数系統の抗菌薬を排出できるポンプもありますので、このようなポンプが作動すると複数系統の抗菌薬に対して耐性となります。
・AmpC型β-ラクタマーゼなど分解酵素を過剰産生することによりβ-ラクタム耐性になります(広域セファロスポリン耐性)。
・細胞表層多糖体であるアルギン酸莢膜多糖などを主成分とするバイオフィルムの産生増加により抗菌薬が浸透しにくくなります。
その他に、他の耐性菌株から伝達性のR‐プラスミド ※3を介して耐性遺伝子を新たに獲得する事により耐性化する仕組みとしては以下のようなものもあります。
※3R‐プラスミド:プラスミドとは、細菌や酵母の細胞内に存在し、染色体DNAとは別の自己増殖性のDNA の総称をいい、薬剤耐性遺伝子を持つものをR-プラスミドと言います。
・IMP-型メタロ-β-ラクタマーゼを産生することによりβ-ラクタム耐性になります(広域セフェム耐性、カルバペネム耐性)。
β-ラクタマーゼについてはこちら

2. 感染症

症状

敗血症や骨髄、気道、尿路、皮膚、軟部組織、耳、眼などに多彩な症状を起こします1)

治療等5)

緑膿菌はペニシリンに対して自然耐性を示しますが、抗緑膿菌作用のある抗菌薬として、ピペラシリン、ピペラシリン/タゾバクタム、セフタジジム、第4世代セファロスポリン系薬、カルバペネム系薬、キノロン系薬、アミカシンなどが知られています。多剤耐性を示す場合はコリスチンなども検討されます。

3. 感染経路

多剤耐性緑膿菌は接触感染で感染すると考えられています。尿、喀痰、創部から多剤耐性緑膿菌が検出される患者をケアした医療従事者の手指を介して他の患者に伝播します6)。水回りなどの環境表面から感染することもあります。

4. 消毒剤感受性7)

多剤耐性緑膿菌は、抗生物質への耐性は高くなっていますが、消毒剤感受性は抗菌薬耐性を獲得する前の菌種と変わりません。基本的には全ての消毒薬が有効ですが、バイオフィルムが形成されると消毒薬は効きにくくなります。また、ベンザルコニウム塩化物含浸綿球は24時間以上にわたって分割使用すると緑膿菌汚染を受けやすくなります。このように、状況によって低水準消毒薬は無効なこともありますので、次亜塩素酸ナトリウムや消毒用エタノールなどの中水準消毒薬を選択する方が望ましいとされています。また、80℃・10秒間や70℃・30秒などの熱水も有効です。

感染対策INFECTION CONTROL

感染防止対策7)

多剤耐性緑膿菌を含む薬剤耐性菌は薬剤耐性スクリーニング検査を行わない限り、誰が保菌しているかはわからないので、標準予防策の考え方が大切です。また、接触感染しますので、標準予防策に加えて接触予防策を行います。水回りなどの湿潤環境に生息しますので、環境整備も重要です。 緑膿菌のすみかとなりやすい用具としては、スポンジ、浴用イス、浴用車イス、浴用ストレッチャ-、剃毛用ハケ、経管栄養剤の投与セット、口腔ケア用品、吸引装置や耐圧チューブ、ネブライザーなどがあります。洗い場でははね返りの少ない構造にするとともに、洗い場の近くにミキシング(混合調製)台を置かないようにします。

多剤耐性緑膿菌施設内感染防止対策のポイント7~10)

手指
  • 目に見えて汚れがある場合には、石けんと流水による手洗い、目に見える汚れがない場合にはアルコール手指消毒剤による手指衛生を行います。
おむつ交換
  • おむつ交換の際は排泄物に直接触れなくても必ず使い捨て手袋とガウンを着用します。
  • 手袋を外した後は手指衛生を行います。
環境
  • ドアノブなどの高頻度接触面は消毒用エタノールを使用します。
浴槽
  • 風呂場は使用後にできる限り乾燥させます。
  • 病院ではシャワー浴の利用が望ましいです。
浴用イス・浴用ストレッチャ-
  • スポンジ様材質は構造的に洗浄や乾燥を行いにくいため、スポンジ様材質を有さない浴用イスを使用します。
  • 浴用ストレッチャ-にディスポカバーを使用することも対策になります。
患者管理
  • 個室が利用できる場合は、多剤耐性菌の保菌または感染が判明しているか疑われる患者に、それらの病室を優先的に割り当てます。
  • 伝播を促進するかもしれない状況にある患者は最優先とします。
  • 個室管理が難しい場合は、同じ多剤耐性菌の患者を同質または同じ患者ケア区域に集団隔離します。

関連リンク

厚生労働省
国立感染症研究所
AMR臨床リファレンスセンター

参考資料