丸石製薬株式会社

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概要SUMMARY

結核は古くからある感染症で1)、HIV感染症、マラリアとともに世界の三大感染症の一つです2)

WHOの報告によると、2020年世界の新規結核患者数は580万人で2019年より減少しましたが、死者数は150万人で16年ぶりに増加しました。これは新型コロナウイルスのパンデミックの影響で、医療機関を受診しなかったためと考えられています。
世界の死者数は、新型コロナウイルスに次いで13位で、そのうち21万4,000人はHIV感染者で、免疫機能の低下により結核が発病しやすくなると考えられています3)

表 諸外国と日本の結核罹患率4)
  • 米国:3
  • オランダ:5
  • デンマーク:5
  • スウェーデン:5.5
  • カナダ:5.5
  • ドイツ:5.8
  • オーストラリア:6.9
  • イタリア:7.1
  • 英国:8
  • フランス:8.7
  • 日本:10.1
  • シンガポール:41
  • 中国:58
  • 韓国:59
  • タイ:150
  • ベトナム:176
  • インドネシア:312
  • ミャンマー:322
  • フィリピン:554

※日本は2020年、その他は2019年のデータ

日本では1950年までの長い間死亡順位1位で「国民病」と恐れられていましたが1)、新規結核患者数は大幅に減少し、2020年の人口10万人あたりの罹患率は10.1となりました。これは、近隣アジア諸国と比べると低水準ですが、欧米の先進国よりは高水準で4)、会社、職場、病院、診療所、(介護)老人保健施設、社会福祉施設などで集団感染が発生しています5)

日本における対策は、昭和26年「結核予防法」が制定され、平成11年「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症法)施行時には含まれませんでしたが、平成18年「結核予防法」が廃止され、平成19年感染症法に統合、2類感染症に分類されました1)

全数把握対象に定められ、診断した医師はただちに届出の義務があります6)

1. 微生物

結核菌の電子顕微鏡写真
(CDCホームページより8)
マイコバクテリウム属の結核菌群※(Mycobacterium tuberculosis complex、ただしMycobacterium bovis BCGを除く)による感染症で、ヒトの結核は主に結核菌(Mycobacterium tuberculosis)が原因です6)
結核菌はマイコバクテリア科マイコバクテリウム属に属する2~4μm×0.3〜0.6μmの桿菌で、芽胞、鞭毛、莢膜はありません。(図)7)
細胞壁は脂質を多く含み、通常の染色法では染まりにくいため、喀痰などの塗抹検査では、抗酸性染色法(チール・ネルゼン法)で染めて確認します7)
結核菌群7)
遺伝子の相同性、生物学的性状が類似している結核菌(Mycobacterium tuberculosis)、牛型結核菌(M.bovis)、アフリカ型結核菌(M.africanum)、ネズミ結核菌(M.microti)、M.tcanettiiM.capraeの6菌種

2. 感染症

症状

主に塗抹検査で陽性の肺結核患者(排菌患者)の咳による飛沫核を経気道的に吸入することで感染しますが、発病するのは通常30%程度です6)
発病リスクは、免疫力が弱い乳幼児、糖尿病、エイズ、胃を切除している人など特定疾患を合併した人、副腎皮質ホルモン剤、免疫抑制剤を服用している人などが高くなります6)
また、高齢者は免疫力の低下により発病するリスクが高く9)、2020年の新登録結核患者の70%以上が60歳以上です4)
結核菌が肺で増殖して発病する肺結核が多く、肺以外にも腎臓、リンパ節、骨、脳など全身のあらゆる臓器に及ぶこともあります6,10)

肺結核の症状は、咳、喀痰、微熱、呼吸困難など風邪のような症状を呈します6,10)

治療・ワクチン

治療は、感染症法で2類感染症に分類され、「結核医療の基準」で定められた化学療法を基本とした治療が行われます。化学療法としては、患者の結核菌に感受性を示す抗結核薬を3剤又は4剤併用して服用することが原則とされています。なお、保健所と連携のもとで確実に服用するように指導されます(DOTS;Directly Observed Therapy Short course,直視監視下短期化学療法)11)。また、BCGを幼児期に接種すると結核の発症を52~74%程度予防でき、10~15年程度効果が持続すると考えられています10)

3. 感染経路

排菌患者の咳により飛沫が飛散し、空気中に浮遊した結核菌を含んだ飛沫核を経気道的に吸入することによる空気感染が主な感染経路です12)

4. 消毒剤感受性

結核菌は細胞壁に多量の脂質を含み、疎水性で、芽胞形成菌を除いた細菌の中では消毒剤、乾燥、温度への抵抗性が最も強いとされています7)
結核菌は消毒剤への抵抗性があり、原則、中水準以上の消毒剤を選択します。

消毒法13)
  • アルコール(消毒用エタノール、70-80v/v%イソプロパノール)で清拭または30分間浸漬
  • 5%フェノールで清拭・噴霧
  • 0.5%両性界面活性剤で清拭
  • グルタラールあるいはフタラールに30分間浸漬
  • 0.3%過酢酸に10分以上浸漬

感染対策INFECTION CONTROL

感染防止対策

感染経路が空気感染であることから、院内においては多角的・総合的な感染対策が必要になります12)
患者を早期発見することが、感染拡大を防ぐ上で最も効果的です12)。 塗抹検査で陽性の肺結核患者(排菌患者)または疑いのある患者に対しては、標準予防策に加えて空気予防策を行います14)
器具は、活動性結核患者に直接接触する器具のみ滅菌・消毒を行います。健常な皮膚に触れるだけの物品や環境は、結核菌に高濃度に汚染されない限り消毒の必要はなく、通常の洗浄・清拭を行います12,13)

結核の予防・対策のポイント12,13,14)

病室
  • 陰圧の個室に収容し、病室の扉は閉めておく
  • 独立換気で1時間に6-12回換気を行う
マスク
  • 病室に入る時、職員、面会者はN95マスクを着用する
  • 患者が検査などで病室から出るときはサージカルマスクを着用する
器具・物品などの
消毒・対策
  • 無菌の体内に直接接触した器具:滅菌
    手術器具など
  • 粘膜に直接接触した器具:高水準消毒
    気管支鏡、喉頭鏡、挿管チューブなど
  • 健常な皮膚に触れるだけの物品や環境など:通常の洗浄・清拭
    リネン、電話機など、食器、部屋の壁
手指衛生
  • 手指に目に見える汚染がない場合
    アルコール手指消毒剤を用いて手指衛生を行う
  • 手指に血液・体液等の目に見える汚染がある場合
    流水下で普通石けんや抗菌石けん(スクラブ剤)での手指衛生を行うか、十分洗浄した後にアルコール手指消毒剤を使用する

参考資料

2022年5月