丸石製薬株式会社

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医療関係者向情報サイト 医療ナレッジ 感染症情報 ウイルス性肝炎(B型肝炎、C型肝炎)

概要1)SUMMARY

肝炎とは、何らかの原因により肝臓に炎症が起き、肝臓の細胞が壊れてしまった状態のことです。原因は、ウイルス性と非ウイルス性(薬剤性、自己免疫性、アルコール性等)があります。ウイルス性肝炎は、肝炎ウイルスに感染することで、肝炎を発症します。無症状のまま感染が持続している持続感染者のことをキャリアといいます。急激に肝細胞が障害される急性肝炎、長期間にわたり肝障害が持続する慢性肝炎に分けられます。急性肝炎は、A型、B型、E型肝炎ウイルス感染によるもの、慢性肝炎は、B型、C型肝炎ウイルス感染によるものが多いです。慢性肝炎はその後、肝硬変や肝がんへ進展し、日本では肝がんのうち約80%がB型肝炎ウイルスとC型肝炎ウイルスが原因です。血液や体液を介して感染するため医療現場でも対応が求められます。
感染症法でB型肝炎、C型肝炎のどちらも5類感染症に分類され、全数報告対象です2,3)

1. 微生物2,3,4)

HBVの電子顕微鏡写真(CDCホームページより5)
B型肝炎ウイルス(HBV:hepatitis B virus)

B型肝炎ウイルスは、直径約42nmの球形で、ヘパドナウイルス科に分類されるDNAウイルスです。ウイルスの本体であり、感染性を持つデーン(Dane)粒子は、コアとコアを被うエンベロープの二重構造となっています。コアを構成する蛋白はHBc抗原、エンベロープを構成する蛋白はHBs抗原と言います。コアの中には、不完全二本鎖DNA、DNAポリメラーゼ、HBe抗原が存在しています。さらに、HBVが感染し肝細胞内で増殖する際、デーン粒子とは別にHBs抗原(小型球状粒子と管状粒子)が作られ、HBV感染者の血中にはこれら粒子が多量に存在します。

HCVの電子顕微鏡写真 イメージ図
C型肝炎ウイルス(HCV:hepatitis C virus)

C型肝炎ウイルスは、直径50~60nmの球状で、フラビウイルス科ヘパシウイルス属に分類されるRNAウイルスです。電子顕微鏡での観察からエンベロープとコア蛋白の二重構造を有すると言われています。ウイルス粒子を形成する構造蛋白質(エンベロープ蛋白、コア蛋白)と、ウイルス粒子に含まれず、ウイルスが増殖するときに必要な非構造蛋白質に分かれます。

2. 感染症(症状、治療等)2,3,6,7)

症状

HBVの潜伏期間は平均75日ですが、30~180日と幅があります。HCVの潜伏期間は2週間から6か月です。
急性肝炎が発症すると、皮膚や眼球粘膜の黄染(黄疸)、褐色尿、激しい倦怠感、悪心嘔吐、腹痛などがみられます。
B型肝炎は、一過性感染すると20~30%は急性肝炎を発症します。B型肝炎はウイルス性肝炎の中で最も劇症化しやすく、急性肝炎を発症した方の約2%が劇症肝炎を発症し、その致死率は約70 %です。持続感染の多くは出生時または乳幼児期に成立し、肝機能正常なキャリアとして経過し、免疫機能の発達により顕性もしくは不顕性肝炎を発症します。その後85~90%は無症候性キャリア、残りの10~15%は慢性肝炎、肝硬変、肝がんのような慢性肝疾患へと移行します。
C型肝炎は、HCVに感染すると急性肝炎を発症したのち、60~70%の方は持続感染し、HCVキャリアとなり、多くの場合、急性肝炎から慢性肝炎、数十年かけて肝硬変へと進展します。
軽症や自覚症状がない場合が多く、血液検査で肝機能異常を指摘されて気づく場合も多いです。

治療

B型急性肝炎の場合、一般的に抗ウイルス療法を必要とせず、症状の緩和や栄養バランスの維持などの対症療法を行い、自然治癒を待ちます。
持続感染している場合、完治させることはできないため治療は慢性肝疾患への進展を抑えることを目標にインターフェロン(IFN)療法や経口治療薬の核酸アナログ製剤が使用されます。
C型肝炎ではHCVを体内からなくすことを目標に抗ウイルス療法を行います。抗ウイルス療法はインターフェロン(IFN)製剤やリバビリン、経口薬である直接作用型抗ウイルス薬(direct acting antiviral:DAA)薬を使用します。

3. 感染経路6,7,8)

HBVは血液や体液、HCVは主に血液を介して感染します。傷のある皮膚や粘膜に血液や体液が付着することにより、体内にウイルスが侵入し、感染します。特に医療現場では、針刺し事故、汚染された鋭利な器具類による切創により血液を介して感染する可能性があります。HBVの針刺し事故での感染率は、汚染源の血液がHBe抗原陽性の場合37~62%、汚染源の血液がHBe抗原陰性の場合23~37%と報告されています。HCVキャリアからの針刺し事故による感染率は、約1.8% と報告されています。またHBV、HCVともに検査法が開発されたことにより、以前多かった輸血などの血液製剤による感染は著しく減少しました。
血液感染以外では、HBVでは、感染者との性交渉や母から子へ起こる垂直感染(母子感染)があります。母子感染は1986年の母子感染防止事業が実施され、新たなHBV母子感染はほとんど防げるようになりました。HCVでは、血液感染以外の感染の可能性は極めて低いとされており、性交渉や母子感染での感染することは稀です。

4. 消毒剤感受性

HBVを培養することはできず、ヒト以外ではチンパンジーにしか感染しないため、チンパンジーでの動物実験が行われ、消毒剤による感染性の不活化が確認されています。
不活化が確認されている消毒剤とその条件は、0.05%次亜塩素酸ナトリウム(10分20℃9))、2%グルタラール(10分20℃9)、もしくは5分10))、70%イソプロピルアルコール(10分20℃9))、80%エタノール(11℃ 2分間10))などです。また98℃ 2分間の熱でも不活化が確認されています10)
HCVはHBVに比べ感染性が低いため、消毒はHBVに準じたものと考えられています。

感染対策INFECTION CONTROL

感染防止対策

感染対策は標準予防策が基本となります。手指衛生の実施や血液や体液が付着しないように個人防護具の着用、血液や体液で汚染されている環境や物品は、汚染が広がらないよう、取り扱いにも注意が必要です。
消毒方法は下記のように言われています11)

① 塩素系消毒剤を用い、有効塩素濃度1000ppm(0.1%)になるよう水で希釈し、1時間以上浸漬
② 2%グルタラール液を用い、30分~1時間浸漬

消毒用エタノール(酒精綿)によるふき取りだけでは感染を防止できない可能性があるので注意が必要です。
HBVに関しては、血液に曝露する可能性のある医療従事者はB型肝炎ワクチンの接種が推奨されます。針刺し事故が起きた場合は、速やかに流水中で血液を絞りだしたのち、傷口を消毒します。その後、汚染源の血液検査、針刺し事故をした方の血液検査を行い、その結果に応じた対応を行います。

ウイルス性肝炎施設内感染防止対策のポイント11,12,13)

手指 目に見えて汚れがある場合、血液・体液に触れた場合は、石けんと流水による手洗い、目に見える汚れがない場合にはアルコール手指消毒剤による手指衛生を行います。
個人防護具 血液・体液に汚染される可能性がある場合は、ガウンまたはエプロン、手袋、必要に応じてマスク、ゴーグルなどの個人防護具を着用します。個人防護具はその都度交換し、手袋は外した後はアルコール手指消毒剤による手指衛生が必要です。
注射針 リキャップはせず、注射針専用の廃棄容器に廃棄します。
器具、物品
  • ディスポーザブル製品は感染性廃棄物として適切に処理し、再利用する場合は洗浄後、Spauldingの分類に従い、消毒、滅菌を行います。
  • 血液や体液で汚染された使用済みの器具は、個人防護具を着用し、血液・体液が飛散しないように洗浄し、現場ではなく、中央材料部門に運搬し、一括処理を行うことが望ましいです。
環境管理 HBVは少なくとも環境中で7日間は感染力が持続する14)ため、環境中に血液や体液の飛散により曝露され感染する懸念があります。
環境の整備は、通常の清掃を行い、血液や体液による汚染がある箇所は、手袋を着用し、ペーパータオルなどで汚れを除去したのち、次亜塩素酸ナトリウムにて清拭消毒します。
リネン類
  • 周囲に汚染を広げないようランドリーバッグなどに入れて運搬します。
    血液や体液に汚染されている場合は感染性リネン類として取り扱い、バッグから血液が漏れないよう注意します。
  • 洗濯は通常の熱水洗浄(80℃10分)の熱水洗濯機で洗濯、消毒薬を使用する場合は、次亜塩素酸ナトリウムに数分間浸漬します。
  • 血液や体液の汚染がひどい場合は廃棄します。

関連リンク

参考資料

2024年1月