丸石製薬株式会社

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医療関係者向情報サイト 医療ナレッジ 感染症情報 バンコマイシン耐性腸球菌

概要SUMMARY

バンコマイシン耐性腸球菌(Vancomycin-Resistant Enterococci:VRE)はバンコマイシンに耐性を獲得した腸球菌です。腸管内に存在する常在細菌ですが、術後患者や感染防御機能の低下した患者では腹膜炎、術創感染症、肺炎、敗血症などの感染症を引き起こすことがあります1)
感染症法上の5類感染症に分類され、発症者は全数報告対象です1)。保菌例は含みません。

1. 微生物

VREのイメージ図
(CDCホームページより2)

VREはMRSAなどグラム陽性菌に有効な抗菌薬であるバンコマイシンに耐性を獲得した腸球菌です。病原性は非常に弱く、通常、健常者は症状が出ません。
腸球菌は腸管内などに存在するグラム陽性球菌で、 Enterococcus属に分類されます。主な菌種はE.faecalis、E.faecium、E.avium、E.casselitflavus、E.gallinarum、E.flavescensで、特に最初の2菌種が代表的な病原体です3)E.faecalisよりもE.faeciumの方が耐性化が強く、注意が必要です3)。VREとして臨床上問題にされ、院内感染対策の対象となっているのはvanAまたはvanB遺伝子を保有する腸球菌です1)

2. 感染症

症状

健常者は腸管内にVREを保菌していても通常、無害、無症状ですが、術後患者や感染防御機能の低下した患者では腹膜炎、術創感染症、肺炎、敗血症などの感染症を引き起こすことがあります1)。VREが血液などから分離されるような感染防御能が全般的に低下した状態の患者では、MRSA、緑膿菌、大腸菌など病原性の強い他の細菌が同時に混合感染を起こしていることも多く、それらの菌による症状が前面に出る場合が多いです1)

治療1)

保菌のみで症状がない場合は、通常、抗菌薬の投与は行いません。
VREによって腹膜炎や術創感染症を引き起こしている場合は、抗菌薬の投与とともに感染巣の洗浄やドレナージなどを適宜組み合わせて行います。
抗菌薬は薬剤感受性試験の結果を元に国内で入手可能で有効性が期待できる抗菌薬の中から患者の症状や基礎疾患などを考慮し、最も適切な薬剤を選択します。また、VREと同時にMRSA、緑膿菌、大腸菌、肺炎桿菌などに混合感染しており、それらの菌による症状が前面に出ている場合は、それらの菌に対する治療を優先することも必要です。

流行状況等

VREは、感染症法上の5類感染症に分類され発症者は全数報告対象です。報告数は2011~2019年まで年間100例未満で推移してきましたが、2020年は136例となり、これまで最多であった2010年の120例を超えました4)。その後も2021年は124例4)、2022年は129例5)と報告数が多い状況が続いています。
薬剤耐性(AMR)アクションプラン(2023-2027)では、成果目標の1つとして、ヒトに関して、「2027 年のバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)感染症の罹患数を 80 人以下(2019 年時点)に維持する。」と設定されています6)。日本では報告数は極めて少数ですが、VREは世界では拡大しています。病院や地域での拡散を防止し、報告数を現在の低い状態に維持することを目標としています6)

3. 感染経路

VREをもつ患者をケアした医療従事者の手指を介して他の患者に伝播します6)。VREで汚染された医療器具や環境表面からも感染します。

4. 消毒剤感受性

VREは、抗生物質への耐性は高くなっていますが、消毒剤感受性は抗菌薬耐性を獲得する前の菌種と変わりません。すべての消毒剤が有効で、過酢酸、フタラール、グルタラールなどの高水準消毒剤、次亜塩素酸ナトリウム、ポビドンヨードやアルコールなどの中水準消毒剤、ベンザルコニウム塩化物や両性界面活性剤などの低水準消毒剤も有効です7)。また、80℃・1分などの熱水も有効です7)

感染対策INFECTION CONTROL

感染防止対策

VREは院内感染の原因となる代表的な薬剤耐性菌の1つであり、感染症法の報告対象となる発症者だけではなく保菌者の把握も重要です4)
また、誰が保菌していても広がりを防ぐことができるように、標準予防策の考え方が大切です。医療従事者の手指や環境表面を介して接触感染しますので接触予防策も行います。

VRE施設内感染防止対策のポイント7),8),9),10)

手指 目に見えて汚れがある場合には、石けんと流水による手洗い、目に見える汚れがない場合にはアルコール手指消毒剤による手指衛生を行います。
おむつ交換 おむつ交換の際は排泄物に直接触れなくても必ず使い捨て手袋とガウンを着用します。
手袋を外した後は手指衛生を行います。
患者管理 個室が利用できる場合は、多剤耐性菌の保菌または感染が判明しているか疑われる患者に、それらの病室を優先的に割り当てます。伝播を促進するかもしれない状況にある患者は最優先とします。個室管理が難しい場合は、同じ多剤耐性菌の患者を同室または同じ患者ケア区域に集団隔離します。
環境 オーバーテーブル、ドアノブや様式トイレの便座は消毒用エタノールを使用します。
聴診器 多剤耐性菌を感染または保菌している患者に聴診器などのノンクリティカル器具を使用する際は患者専用とします。

参考資料

2023年10月