丸石製薬株式会社

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医療関係者向情報サイト 医療ナレッジ 感染症情報 ペニシリン耐性肺炎球菌感染症

概要SUMMARY

ペニシリン耐性肺炎球菌(penicillin-resistant Streptococcus pneumoniae:PRSP)感染症は、ペニシリンに対して耐性のある肺炎球菌による感染症です。PRSPの病原性や増殖能などはペニシリン感受性の肺炎球菌と同等です1)
肺炎球菌は、上気道に存在する弱毒性の常在細菌ですが、小児、成人に肺炎, 中耳炎, 副鼻腔炎などを引き起こします1,2)
ペニシリン耐性肺炎球菌感染症は、感染症法の5類感染症に分類され、基幹定点医療機関※1が月単位で届出する感染症です1)

※1全国約500カ所の病床数300以上の医療機関

1. 微生物

薬剤耐性肺炎球菌の電子顕微鏡写真
(CDCホームページより3)

ペニシリン耐性肺炎球菌(penicillin-resistant Streptococcus pneumoniae:PRSP)は、グラム陽性球菌に有効なペニシリンに対して耐性を獲得した肺炎球菌です。肺炎球菌は、口腔や鼻腔、咽頭などの上気道に存在する弱毒性の常在細菌で、通常無症状ですが、呼吸器病原性菌の一つです。なお、PRSPの病原性や増殖能などはペニシリン感受性の肺炎球菌と同等です1)
肺炎球菌は、レンサ球菌属に属するα溶血性を示すグラム陽性双球菌で、莢膜※2を有します。
莢膜が病原因子として最も重要で、その抗原性の違いにより97の血清型が知られています2)
肺炎球菌の耐性基準は、NCCLS(National Committee for Clinical Laboratory Standards、米国臨床検査標準委員会)※3の基準ではベンジルペニシリンに対するMIC値が≧2μg/mlの株はPRSP、0.12-1μg/mlの株はペニシリン低感受性菌(PISP)とされています1)
耐性機序は、細胞壁合成酵素ペニシリン結合蛋白(penicillin binding proteins:PBP)のPBP1A、 PBP2Bの変異やPBP2Xと命名された変種のPBPを獲得したためと考えられています1)
なお、ペニシリンだけでなくテトラサイクリン、マクロライド、ニューキノロンなどを含む広範囲の抗菌薬に耐性を示す多剤耐性肺炎球菌(MDRSP)の増加が問題となりはじめています1)

※2菌の表層にあるポリサッカライドライド(多糖)の膜でワクチンの標的
※32005年CLSI(Clinical and Laboratory Standards Institute、米国臨床検査標準協議会)に名称変更

2. 感染症

症状

肺炎球菌は、乳幼児の鼻腔、咽頭には40~60%と高頻度に保菌されています。高齢者では3-5%保菌されています。通常無症状ですが、ウイルス性の咽頭炎や扁桃炎などの上気道炎が起きると、炎症部位の菌が増殖し、2次的に肺炎、中耳炎、副鼻腔炎などの感染を引き起こします。小児に中耳炎や咽頭炎、扁桃炎を引き起こし、感染防御能が低下した乳幼児、特に2歳以下では髄膜炎を起こしやすいとされています。高齢者では肺炎、ときに菌血症を伴う肺炎、髄膜炎を起こすことがあります。なお、健常者では肺炎を起こすことは稀です1,2)

流行状況

成人の肺炎(市中発症肺炎と医療ケア関連肺炎)の約20%は肺炎球菌が原因です2)
PRSP感染症の定点あたり報告数は2011年以後減少し、2020年には879例に減少しました(図)5)。小児と高齢者に多い傾向があり、2018年5歳未満が約32%、60歳以上が約55%と報告されています6)

治療・ワクチン

PRSPが口腔や鼻腔などから分離されても無症状の症例には、除菌目的に抗菌薬投与は行われません。
中耳炎や副鼻腔炎には、カルバペネム系などの感受性のある抗菌薬投与や症状により外科的治療が行われます。敗血症や髄膜炎、肺炎、術後創感染症などには、感受性のある抗菌薬の投与が必須で、カルバペネム系とベンジルペニシリンの大量投与療法、重症例にはカルバペネム系とグリコペプチド系抗菌薬が併用されることもあります1)
また、肺炎球菌感染症を予防するため、65歳以上の高齢者には23種類の血清型に対応した23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン、小児には13種類の血清型に対応した13価肺炎球菌結合型ワクチンの定期接種が行われています7,8)

3. 感染経路

肺炎球菌は、気道の分泌物に含まれ、唾液などを通じて飛沫感染します9)

4. 消毒剤感受性

肺炎球菌は、熱、消毒薬に対する抵抗性は比較的低いと考えられています4)。なお、PRSPも同等と考えられます。

感染対策INFECTION CONTROL

感染防止対策

2021年JANIS参加923施設における入院患者のPRSP新規感染患者は、薬剤耐性菌感染患者の中で1.18%(186 人)で、そのうち73.7%が肺炎を発症しています9)
PRSP感染症の感染防止対策は「CDC隔離予防のためのガイドライン2007」10)に多剤耐性菌として標準予防策に加え、伝播が進行しているエビデンスがある環境、伝播の危険性が高い急性期現場、ドレッシングで覆うことができない創には接触予防策が推奨されています。また、肺炎球菌による肺炎は、病棟で伝播が進行しているエビデンスがある場合は飛沫予防策が推奨されています。

ペニシリン耐性肺炎球菌の予防・対策のポイント10,11,12)

病室
  • 個室に収容する
  • 個室に収容が難しい場合は、同じ感染症患者で集団隔離(コホート隔離)を行う
  • 集団隔離の場合は、ベッドを2m離す(飛沫予防策必要時)
手袋
  • 病室に入る時手指衛生後手袋を着用し、出る時手袋を外し、手指衛生を行う
  • 患者や病室環境に触れる場合は、手袋を着用する
ガウン・マスク
  • 排菌患者に直接接触する場合、病室環境に触れる場合はガウンを着用する
  • 病室から出る時、ガウンを脱いで手指衛生を行う
  • 患者から2m以内に近づく場合はサージカルマスクをする(飛沫予防策必要時)
手指衛生
  • 排菌患者のケア後は、手指衛生を行う
  • 手指に目に見える汚染がなければアルコール手指消毒剤を用い、目に見える汚染がある場合は、流水下で普通石けんや抗菌石けん(スクラブ剤)での手洗いを行う
聴診器、血圧計などの器具
  • 患者専用とし、使用後はアルコールなどで消毒する
食器や残渣、リネンなど
  • 患者が使用した物品などは、運搬中に環境を汚染しないようにビニール袋などに入れて取り扱う
  • 食器や残渣、リネンなどの処理は通常の処理を行う
環境
  • 病室は、通常の清掃を行う
  • ベッド柵、オーバーベッドテーブル、ドアノブなど高頻度接触面は、1 日 1 回以上環境消毒薬を用いて清拭する

参考資料