丸石製薬株式会社

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医療関係者向情報サイト 医療ナレッジ 感染症情報 中東呼吸器症候群(MERS)

概要SUMMARY

中東呼吸器症候群(MERS)は、2012年サウジアラビアで初めて確認されたMERSコロナウイルスによる急性呼吸器感染症です。
中東地域で広く発生しており、その地域を訪問した人が帰国後発症するケースが多数報告されています。

現在日本で発生の報告はありませんが、2018年9月、隣国の韓国では2015年の流行以来3年ぶりに確認され、
9月10日の報道では、韓国政府は感染症の警戒レベルを引き上げて感染の拡大防止を行い、20人余りを隔離しています。
なお、2012年9月~2018年5月31日に、WHOに2,220例の確定患者と少なくとも790例の死亡例が報告され、死亡率は約35%とも言われています。

二類感染症に指定されており、MERSと診断した医師は直ちに届出、保健所では入院勧告、就業制限を行います。

1. 微生物

MERSコロナウイルスの
電子顕微鏡写真
(CDCホームページより1)

MERSコロナウイルス(MERS-CoV)は、脂質二重膜のエンベロープを持つ直径100nmの1本鎖RNAウイルスで、
コロナウイルス科ベータコロナウイルスに分類されます。

RNAウイルスのなかでは最大サイズで、エンベロープの表面に王冠"crown"に似た突起を持ちます。
コロナウイルスは、ラテン語で王冠の意味の"corona"から名前が付けられています。2)

2. 感染症

症状

臨床症状は、無症状や軽度の呼吸器症状から急性呼吸窮迫症候群(ARDS)や死亡まで多岐にわたります。
潜伏期間は2~14日(中央値は5日程度)で、典型的な症状は、発熱、咳、息切れなどから始まり、
場合により急速に肺炎を発症します。重症の場合、ARDSを起こすことまであります。

また、下痢などの消化器症状や、多臓器不全 (特に腎不全) や敗血症ショックを伴う場合もあります。
さらに、高齢者、糖尿病、慢性肺疾患、免疫不全などの基礎疾患のある人で重症化する傾向があります。
なお、WHOに報告されたMERS患者の約35%が死亡していると報告されています。

治療等

現在、MERSコロナウイルスに対するワクチンや特異的な治療法はありません。患者の症状に合わせた対症療法が行われます。

3. 感染経路

ヒトコブラクダがMERSコロナウイルスの主宿主であり、ヒトへの感染源として考えられています。
発生地域の中東ではラクダとの直接接触、生や加熱不十分なラクダの乳や肉の摂取が高リスクとされます。

また、動物との接触歴のない患者も多く、家族間や医療現場での患者-医療従事者間や患者間など濃厚接触者間での感染が報告されています。
2015年韓国での流行は、旅行者から医療機関内で感染が広がりました。
感染力は季節性インフルエンザに比べて弱く、次々にヒトからヒトへ感染する例はみられていません。

感染経路は主に飛沫感染と接触感染です。空気感染は否定的ですが、完全には解明されていません。

4. 消毒剤感受性

MERSコロナウイルスの消毒剤感受性は報告されていません。しかし、エンベロープを持つウイルスであり、消毒剤への抵抗性は高くありません。
消毒用エタノール、70%イソプロパノール、0.05~0.5%次亜塩素酸ナトリウムなどの使用が推奨されています。3)

感染対策INFECTION CONTROL

感染防止対策

流行地に渡航する場合は、ヒトコブラクダなどの動物との接触を避け、
未殺菌のラクダの乳など加熱不十分な食品の摂取を避けることが対策になります。

現在日本での報告はありませんが、疑われる例では、患者の渡航歴、動物との接触歴、症状等の情報を確認するとともに、
飛沫予防策と接触予防策を取ることが必要になります。

空気感染は完全に否定されていないため、気管内吸引などエアロゾルの発生する処置をする場合は空気予防策が推奨されています。

中東呼吸器症候群(MERS)の感染防止対策のポイント

呼吸器衛生/
咳エチケット
感染の徴候・症状のある者に次の対策を行います。
  • 咳やくしゃみをする時には口と鼻を覆い、ティッシュを使用して廃棄する。
  • 飛沫が付着した後は手指衛生を実施する。
  • ノンタッチ式ゴミ箱(フットペダル式、開放式)を用意する。
  • その指示をする告知を掲示する。
  • 待合室等に使用しやすい場所にアルコール手指消毒剤や手洗い用品を配置する。
  • 咳のある患者にマスクをしてもらい、他の人から1m以上離れるよう勧める。
手指 手指衛生にはアルコール手指消毒剤を使用し、目に見える汚染のある場合は流水での手洗いを行います。
器具・物品類 接触予防策として、体温計、血圧計など、器具は可能な限り患者専用とします。
消毒を行う場合は、0.05%次亜塩素酸ナトリウム、消毒用エタノールなどで適切に行います。
環境 目に見える環境汚染に対して清拭・消毒します。手が頻繁に触れる部位については、目に見える汚染がなくても清拭消毒を行います。
使用する消毒剤は、消毒用エタノール、70%イソプロパノール、0.5%次亜塩素酸ナトリウムです。
なお、次亜塩素酸ナトリウムを使用する際は、換気や金属部分の劣化に注意して使用してください。
リネン 感染性リネンとして取扱い、80℃10 分間の熱水洗濯や0.05%次亜塩素酸ナトリウムに30分浸漬します。
個人保護具 飛沫予防策、接触予防策として、サージカルマスク、手袋、ガウン等を着用し、対応します。
さらに患者の気道吸引、気管内挿管の処置等、エアロゾル発生の可能性が考えられる場合は、
空気感染予防策として、マスクはN95マスクを使用し、眼の防護具(フェイスシールドやゴーグル)を追加します。
患者病室 入院に際しては、空気予防策として陰圧管理のできる病室もしくは換気の良好な個室を使用します。
個室が確保できず複数の患者がいる場合は、同じ病室に集めて管理することを検討します。
外来では、患者にサージカルマスクを着用してもらう(咳エチケット)、
他の患者と離し、動線が交差しないような場所で診療を行う(トリアージ)、スタッフの感染予防策等を行います。
患者の移送 患者の移動は必要な目的に限定し、できるだけ避けます。
移動させる場合には可能な限り患者にサージカルマスクを着用してもらい、他の患者と離し、動線が交差しない方法で行います。
患者、疑似症患者との
接触者
患者や疑似症患者と必要な感染防護策なしで接触した医療従事者は、接触した可能性がある日から14日間健康観察を行います。

関連リンク

〈厚生労働省ホームページより〉
〈厚生労働省検疫所ホームページより〉
〈国立感染症研究所ホームページより〉
〈東京都福祉保健局ホームページより〉
〈厚生労働省健康局結核感染症課長〉

参考資料