丸石製薬株式会社

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医療関係者向情報サイト 医療ナレッジ 感染症情報 クロストリディオイデス・ディフィシル感染症

概要SUMMARY

クロストリディオイデス・ディフィシル感染症(Clostridioides difficile infection :CDI)は、
クロストリディオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficileC.difficile)が原因菌の高齢者に多い下痢疾患で、医療関連感染として重要です。

C.difficileは、自然環境、ヒトや動物の腸内の常在細菌叢の少数菌として常在しますが、
抗菌薬の投与により菌交代現象として異常増殖したC.difficileが産生した毒素により、抗菌薬関連下痢症や偽膜性大腸炎などの下痢疾患を起こします。

C.difficileによる医療関連感染は、北米や欧米では2003年以降、強毒型C.difficile(リボタイプ027株)のアウトブレイクがみられ、数千例規模の集団発症と数百人の死亡例を伴った報告もあります。現在、日本では強毒型によるアウトブレイクはみられていませんが、他の株での施設内感染や死亡がみられています。

1. 微生物2~5)

クロストリディオイデス・ディフィシルの
電子顕微鏡写真(CDCホームページより1)

C.difficileは0.5~1.9×3.0~16.9μmの偏性嫌気性のグラム陽性桿菌で、周毛性鞭毛をもつため、運動性があります。
生育に酸素を嫌うため、発見当初培養が困難(difficult)であったことから、C.difficileと名付けられました。

従来、破傷風菌やボツリヌス菌、ウエルシュ菌などと同じClostridium属に分類されていましたが、
2016年、新しい属としてClostridioides属が新設され、Clostridioides difficileとなりました。

C.difficileは土壌などの自然環境や、ヒトやその他の動物の腸管に、常在細菌叢を構成する少数菌として常在します。

ヒトの定着率は、新生児から乳児まで20~90%と高いですが、無症候性であまり症状を示しません。2~3歳では1~3%となります。成人の保菌率は2~15%と報告されていますが、入院環境や長期介護施設などでは、長期化するほど保菌率が上がる(入院環境で30%、長期介護施設で50%)とされます。

また、周囲の環境が生存に厳しくなると、その環境に抵抗性を持つ休眠状態の芽胞に形態を変化させます。
この芽胞は、環境に長期間生存し、熱や乾燥、消毒剤に強い抵抗性があります。
主に腸管内では栄養型、腸管外では芽胞として生存します。

C.difficileは、病原性の原因である3種類の毒素、toxin A、toxin B、binary toxin(二成分毒素)を産生します。
toxin Bはtoxin Aの100倍近い細胞毒性を示します。また、toxin A、B の大量産出とフルオロキノロン耐性の特徴を持つ強毒型C.difficile(リボタイプ027株、078株)も報告されています。

2. 感染症2~4,6)

症状

クロストリディオイデス・ディフィシル感染症(Clostridioides difficile infection :CDI)の症状は、主に抗菌薬の使用によって腸内の正常細菌叢が乱され、
菌交代現象として異常増殖したC.difficileが産生した毒素による抗菌薬関連下痢症や偽膜性大腸炎などの高齢者に多い下痢疾患です。
偽膜性大腸炎とは、内視鏡検査により大腸のかべに小さい円形の膜(偽膜)が見られる大腸炎の呼称で、そのほとんどはC.difficileが原因菌です。

軽症例では1日数回の下痢、重症例では泥状、水様便で粘液、血液が混入し、時に腹痛や発熱を伴います。
劇症例になると麻痺性イレウスを合併するため下痢よりも便秘がみられることもあります。

さらに、強毒型C.difficileの感染では、下痢症や偽膜性大腸炎の他、敗血症、腎不全、中毒性巨大結腸症、腸穿孔により致死的な病態になる場合もあります。

また、医療関連感染症として重要で、入院中の抗菌薬関連下痢症の20~30%、偽膜性腸炎の90%がC.difficileによるものです。
また、再発例も多く、高齢者や免疫不全症例では再発し難治化しやすいです。

治療等

抗菌薬投与中に下痢が出現し、急激に白血球が増多するなど、CDIが疑われるときは、
糞便検査でtoxin A、toxin B、C.difficileの共通抗原であるGDH抗原(glutamate dehydrogenase:グルタミン酸脱水素酵素、D-1抗原)の検査を行います。

また、原因となった抗菌薬の投与を早急に中止し、必要があれば、CDIを生じにくい抗菌薬へ変更を行います。
脱水症状がある場合は、水分と電解質の補給で対応します。

C.difficileの除菌治療としては、メトロニダゾールやバンコマイシンの投与が行われます。

3. 感染経路7)

感染経路としては、内因性のものと外因性のものがあります。

内因性 腸管内に常在していたものが、抗菌薬投与によって正常菌叢が乱れ菌交代現象として生じます。
外因性 接触感染・経口感染(糞口感染)であり、糞便中の菌・芽胞で汚染された用具や環境がリザーバーとなって、
医療従事者の手指、感染者の手指などを介して伝播します。

4. 消毒剤感受性3,7)

C.difficile芽胞の不活化には、オートクレーブなどの滅菌、グルタラール、フタラール、過酢酸などの高水準消毒剤、次亜塩素酸ナトリウムが有効です。
次亜塩素酸ナトリウムは、汚れを想定し、0.1%液に0.1%アルブミンを添加した場合であっても、5分で効果があったとの報告があります。

しかし、アルコールやその他多くの消毒剤は無効です。

感染対策INFECTION CONTROL

感染防止対策3,5,6~11)

内因性感染を防止するには、広域スペクトル抗菌薬などの抗菌薬の使用を制限します。

外因性の主な感染経路は接触感染、経口感染(糞口感染)で、少なくとも罹病期間中、標準予防策に接触予防策を追加して行います。

C.difficileは糞便に多く含まれるため、排泄物の取扱いは重要です。下痢、失禁患者は個室あるいは集団管理を行います。
また、症状が治まってからも排菌がみられるため、可能であれば、下痢が治まっても少なくとも48時間は接触予防策を継続することが望ましいとする推奨も、
集団発生時は退院まで継続するという推奨もあります。

さらに、糞便による環境汚染は重大な問題であり、その対策が望まれます。また、糞便が付着した衣類やおむつの取扱いには特に注意が必要です。

クロストリディオイデス・ディフィシルの感染防止対策のポイント

患者管理 C.difficile感染症患者および疑い患者は可能な限り個室管理とします。
個室管理が困難な場合には患者同士を集めてコホーティング(集団管理)します。
個室には專用のトイレか便器や手洗いなどの設備を備えることが望まれます。
手指 手指の汚染を防ぎ手指からの伝播を防ぐため、手指衛生が最も重要です。
C.difficile芽胞はアルコールをはじめとする多くの消毒剤に対して抵抗性があるため、有効な手指消毒剤がありません。
そのため、汚染された手指は、石けんと流水下での手洗いを行います。
手指衛生は適切なタイミングで適切に行うことが必要であり、また、訪問者にも同様の対策を指導します。
手袋、ガウン
またはエプロン
CDI患者の病室に入室する際医療従事者や訪問者は手袋とガウンまたはエプロンを装着します。
手袋使用でCDIの発生率が顕著に低下したとの報吉があり、手袋の適切な使用は有効な対策の一つです。
環境管理 患者病室、トイレおよび浴室などは芽胞が大量に汚染している可能性があり、適切な清掃や消毒など環境管理が必要です。
室内の除菌を改善することでCDIを減らすことが可能であった報告があります。
便座や水洗レバー、ドアノブなど手がよく触れる部分は特に意識して消毒を行い、患者が退出した後には、速やかな清掃と徹底的な消毒を行います。
消毒を行う場合は、0.1%次亜塩素酸ナトリウムで清拭します。
しかし、刺激性や毒性、金属腐食性が強いため広範囲に用いることは困難で、湿式清掃による物理的除去も基本とします。
次亜塩素酸ナトリウム消毒を行う場合は、窓の開放や、酸性ガス用のマスクなどを着用して曝露防止に注意を払い、
金属箇所は5分間以上してから、水拭きなどで除去します。
また、次亜塩素酸ナトリウムはペーパータオルで濃度低下を起こしやすいので、濃度低下を起こさない拭布を使用します。
リネン類 0.1%次亜塩素酸ナトリウムへの30分間浸漬や、洗濯のすすぎ工程後に0.05%次亜塩素酸ナトリウムへの5分間浸漬などを行います。
ただし、色・柄物は脱色するためご注意ください。
器具 体温計、聴診器などは患者専用の物品を用い、他の患者に使用する場合はその前に十分な洗浄と消毒を行います。

関連リンク

〈厚生労働省ホームページより〉
〈東京都ホームページより〉
〈国立大学附属病院 感染対策協議会ホームページより〉

参考資料

  • 1) CDC:Public Health Image Library (PHIL)新しいタブで画像が開きます https://phil.cdc.gov//PHIL_Images/16786/16786_lores.jpg
  • 2) 吉田眞一、他編:戸田新細菌学,改訂34版.南山堂,2013,397-9.
  • 3) CDI診療ガイドライン作成委員会編:Clostridioides (Clostridium) difficile感染症診療ガイドライン,日本化学療法学会・日本感染症学会,2018.
  • 4) 神谷茂:モダンメディア2010;56(10),233-41.
  • 5) 山岸由佳、他:化学療法の領域 2015;31(1),58 – 62.
  • 6) 国公立大学附属病院感染対策協議会:病院感染対策ガイドライン2018年版. じほう,2018, 88-92.
  • 7) 尾家重治:シチュエーションに応じた消毒薬の選び方・使い方.じほう,2014,100-3.
  • 8) 谷田憲俊:感染症学 改訂第四版. 診断と治療社,2009,62-4.
  • 9) 小林寛伊、編:新版 増補版 消毒と滅菌のガイドライン.へるす出版,2015,84-5.
  • 10) 細田清美:INFECTION CONTROL2017; 26(1),33 - 7.
  • 11) 尾家重治:感染制御JIPC2014;10(2),123 – 7.