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SARS
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感染症
感染症新法での扱い
病原体
感染経路
消毒剤感受性
感染防止対策
予防・治療
参考資料

 世界を震撼させた重症急性呼吸器症候群(以下、SARS)は、2003年7月、世界保健機構(WHO)から一応の終息宣言が出された。しかし、来冬にSARSが大規模な流行を生じる可能性が危惧され、WHOも継続的警戒を求めている。SARSの感染防止ではいつSARS患者が来院しても、対応できるような体制を確立しておくことが重要とされる。次にSARSの概要・感染防止対策について紹介する。

 この内容は2003年10月1日現在の情報でまとめたもので、今後の情報により内容に変化が生じる可能性があります。

なお、このサイトは医療関係者(医師・看護師・薬剤師等)の方に情報提供することを目的として作成しています。ご了承下さい。

発病第1週

患者は最初にインフルエンザ様の前駆症状で発症する。発熱、倦怠感、筋肉痛、頭痛、戦慄などを含む症状を示す。特異的症状・症候群は確認されていない。発熱歴が最も頻繁に報告されるが、発熱や咳のない患者もみられ、入院時の胸部レントゲンも約30%は異常が見られていない。


発病第2週

咳嗽(初期には乾性)、呼吸困難、下痢は発病第1週にも見られるが、一般的には第2週目により多く報告されている。重症例は急速に呼吸窮迫と酸素飽和度の低下が進行し、約20%が集中治療を必要とする。最大70%の患者が、血液や粘液を含まない、大量の水様性の下痢を発症する。感染力の強い時期である。

感染症
 

次のような段階的な自然経過を取ることが報告されている。


 SARSの集団発生の顕著な特徴は院内感染で、医療従事者の感染者は全体の20%を占める。症例のほとんどは成人であり、小児患者はほとんど見られていない(表1)。潜伏期間は通常2〜10日で、より長い報告もみられる。入院してから死亡までの期間は平均36日であるとの報告がある。
 2002年11月から2003年8月7日までにWHOに報告されたSARS患者は8,422人、死亡者は916人、死亡率は11%であった(図1)。


図1. 経時的SARS報告者数・回復者数・死亡者数・死亡率の推移
表1. WHOによる推計死亡率
年 齢 階 級 推計死亡率
全 年 齢 11%
24歳以下 1%未満
25〜44歳 6%
45〜64歳 15%
65歳以上 50%以上
(5月7日 WHOレポートより)
図1. 経時的SARS報告者数・回復者数・死亡者数・死亡率の推移
感染症新法での扱い

感染症予防法(2007年6月 施行)において重症急性呼吸器症候群(SARS)は、「2類感染症」に属します。

病原体
 

SARSの病原体は4月16日、WHOによりコロナウイルス科に属する新しいウイルス:SARSコロナウイルス(以下、SARS−CoV)と発表されている。
コロナウイルスは大きさ約80〜160nmのエンベロープを持つRNAウイルスで、形が太陽の光冠(コロナ)に似ていることから命名されている。コロナウイルスはヒトでは、鼻風邪の5〜30%の原因になるとされているが、症状は軽度〜中等度であり、SARSのように重症な病気を起こすものは知られていなかった。また動物では、ブタ、マウス、ニワトリ、七面鳥などに呼吸器系、消化管、肝臓、神経系などの病気をおこすコロナウイルスが知られていた。
人に風邪をおこす(SARS−CoV以外の)コロナウイルスは日本では6月以後に感染がおさまり、翌冬に本格的な流行が起こるとされる。SARSも同様に来冬に猛威を振るう可能性が危惧されている。
SARS−CoVは従来のコロナウイルスより環境抵抗性があり、室温、糞便や痰中で、約5日間、尿中で10日、血液中では15日間生存することが報告されている。

感染経路

気道分泌物の飛沫感染が主要感染経路と考えられるが、SARS−CoVは乾燥に強いため手指や物を介した接触感染も十分推測される。また、可能性は低いものの空気感染も完全には否定されていない。
これまでの疫学的検討から、最も感染の危険性が高いと考えられることは、SARS患者の看護・介護をしたか、その患者と同居をしたか、またはその患者の体液や気道分泌物に直接触れたなど「SARS患者との濃厚な接触があったこと」である。
香港では下水溝内の空気が浴室に逆流した事が主因で起こったとされる集団感染例が報告されている。これは換気扇を回すことにより生じた気圧差により下水溝内の空気が浴室内に逆流したとされている。当該患者集団は他と比べて病状が重く、症状も異なっている。その原因がウイルスの変異か、感染経路の違いによるものか、曝露ウイルス量の違いによるものかは明確ではない。
また、SARS感染・治癒・回復後、3〜6ヶ月間排泄物や体液(唾液、鼻水、涙など)に感染力が残り、他人に伝染する可能性があると推定する報告も見られる。その場合、感染力が残っているとしても、徹底した隔離と完全消毒が必要とされるのではなく、マスクの着用や手洗いに努め、衛生面での自己管理に配慮する程度で通常の日常生活が可能としている。しかし、周囲に伝播する可能性については十分留意しておくべきである。
多くの人に感染をひろげるスーパー・スプレッダーや症状はないが周囲の人に感染を広げるサイレント・キャリアからの感染が問題視されている。

消毒剤感受性
 

SARS−CoVについては香港大学クイーンメリー病院で75%エタノールや2%フェノールなどで室温・5分間の接触が有効と確認されている。また、その他の消毒剤については国立感染症研究所から「SARSコロナウイルスに対する消毒剤の適用(例)改訂版」が出されている。
SARS−CoVは、エンベロープを持つウイルスであるため、グルタルアルデヒド、次亜塩素酸ナトリウム、消毒用エタノール、ヨウ素系消毒剤のような広域消毒剤の使用が勧められている。SARS−CoV以外のコロナウイルスでは塩化ベンザルコニウムも有効との報告が見られるが、SARS−CoVでの試験ではない。また、SARS−CoVは環境抵抗性が強いこと、感染力、重症度、死亡率が高いことにより、現在の段階では塩化ベンザルコニウム、両性界面活性剤、グルコン酸クロルヘキシジンなどの低度に属する消毒剤の使用は勧められていない。

感染防止対策

 感染防止対策の基本概念としては標準予防策および飛沫予防策が最も重要であり、乾燥抵抗性が強いため接触予防策にも取り組む必要がある。まだ未知の部分の多い微生物であるため、すべての感染経路対策をとらなければならないが、空気感染は今のところまれか、ほとんどないと考えられている。
 ネブライザー、胃・気管支内視鏡などの気道を侵襲する可能性のある処置時、医療従事者が患者に非常に近接する場合、感染性がある分泌物へ接触するおそれがある場合には特に注意が必要である。
 次にSARSの感染防止対策例についてまとめるが、患者対応や感染防止手順などについてマニュアル化しておき、手順を全ての医療従事者が正しく遵守できるようチェックリストを作成し、活用することが望まれる。教育を十分に行い、対策について十分習得した限られた人数の医療従事者で患者対応をしていくことも勧められている。

隔 離

外来では渡航歴、発熱、呼吸器症状などの問診によりSARSの疑いのある患者を早期発見し、マスク(外科用)を着用してもらい、出来るだけ他の患者と接触しないような隔離室・個室等の場所に誘導(トリアージ)することが大切である。
入院患者の場合、病室は個室を原則とする。病室はドアを閉鎖し、陰圧、独立した空調設備があり、手洗い、浴室を備えていることが望ましい。多数のSARS患者が発生し、個室対応が不可能な場合は、SARSの可能性のある複数の患者を独立した空調システムと手洗いなどを備えた、SARS以外の患者との接触を断つことのできる場所にある病室に入院させることになるが、SARSの疑いで検査を受けている患者と、診断が確定した患者は同室にしないなどの配慮が必要である。

バリア

医療従事者は飛沫・接触・空気感染に対する個人予防具(N95以上の性能の防御マスク、手袋、使い捨てガウン、エプロン、ゴーグル、汚染除去可能な履物など:以下PPEと略)を着用する。しかし、PPEをしても、「PPEは破綻する、または破綻している可能性がある」ことを注意し、感染源との接触は最小限にする、できるだけ2m以上の距離をとり、風向きにも注意するなどの配慮を行うべきともされている。

マスク:

医療従事者はN95以上の性能のマスクを使用する(詳しくは国立感染症研究所ホームページ「重症呼吸器症候群(SARS)の院内感染対策指針(3訂)」参照)。
N95マスクを着用していても、装着が不良(マスク位置がずれる、一時ずらす、はずすなど)で感染したことが疑われる例も報告されているので、着用の際のテクニックが重要である。使用したマスク表面は汚染されていることを認識して、取り扱いに注意する。

手袋:

全ての患者の看護・診療を行う際には手袋を着用する事が推奨される。手袋はピンホールがあったり、はずすときに手を汚染する可能性があるため、手袋をはずした後は手洗い・手指消毒を行う。
また、患者毎に、または患者の気道分泌物に汚染される可能性がある酸素マスク、酸素チューブ、経鼻酸素チューブ、ティッシュペーパーなどの物品に触れた後は必ず交換する。
汚染した手袋で周囲に触れ汚染を拡大することがない様に注意することが必要である。

脱衣手順:

手袋と同じく、他のPPEも脱ぐ際に汚染されやすいので、汚染されないような手順で注意しながら脱ぐことが大切である。
一例では最初に手袋をしたまま手袋をアルコール消毒し、そのガウンの汚染表面を包むように裏返しになるように脱ぐ、次にキャップを脱ぎ、手袋を脱ぐ。その後、マスクやゴーグルをはずし、最後にウエルパス®のような速乾性擦式手指消毒剤で消毒する方法が推奨されている。

手洗い・
手指消毒

感染防止対策のなかで最も基本的かつ効果的な方法である。
ウエルパス®などの速乾性擦式手指消毒剤(水を使わないアルコールベースの手指用消毒剤)の使用が勧められる。薬液3mLを使用し、手指全体を消毒し残しのないようにまんべんなく消毒することが大切である。
もちろん、流水下の手洗いも重要である。ただし、汚染を広げる前に手指汚染の除去をすることが重要であり、汚染されたその場での消毒が重要である。また、高い手指衛生実施率を獲得する(医療従事者全員に、より頻回に手洗い・手指消毒を行ってもらう)ために速乾性擦式手指消毒剤の使用が推奨されている。ただし、手が目に見えて汚れている場合は事前に流水下手洗いを行うことが大切である。

医療器具

可能な限り当該患者専用にする。ディスポ器具を使用することが勧められているが、他患者に再使用する場合はSARS−CoVに確実に有効な消毒剤で消毒後使用する。特に入り組んだ器具類(いくつかのパーツで構成されていて、すりあわせ部分があったり、洗浄が困難な器具類)は消毒していない部分が残らないよう手技を十分考慮し、丁寧に消毒を行う。

環境消毒

ドアノブ、スイッチ、オーバーテーブル、ベッド柵、机、椅子など手の触れる部分は感染の原因になるため消毒用エタノールやマスキン®Wエタノールなどで消毒する。非金属であれば0.1%次亜塩素酸ナトリウムでの清拭消毒が可能とされる。事前に素材に影響がないか確認しておくことが望ましい。
床消毒については現在意見が分かれていると思われる。WHOのガイドラインでは病室の清掃は「ウイルスに有効性が証明されている広域消毒剤を用いて、PPEを着用したスタッフによって行う」とされているが、ウイルスに有効性が証明されている広域消毒剤で環境消毒に適しているものはないと思われる。国立感染症研究所の「SARSコロナウイルスに対する消毒剤の適用(例)改訂版」では「床の消毒にはグルタルアルデヒド0.2%液で清拭し、30分以上放置の後、水拭きする。」との記載が見られるが、現在、その適用は無く、液や蒸気は目や鼻、皮膚に対し刺激性を有する。消毒用エタノールは引火性があり床消毒のような広範囲には使用困難で、さらに床を傷めたり、変色させる可能性がある。次亜塩素酸ナトリウムは塩素ガスを吸入してしまう可能性があり、また、床素材にも影響を及ぼす可能性がある。
厚生労働省の「重症急性呼吸器症候群(SARS)に対する消毒法」では喀痰などの付着がない限り、天井、壁、および床などの消毒は不要としている。
作業を行う者はウイルスを吸入しないようにPPEを着用し、十分注意しながら行う。

リネン
マットレス

シーツ、カバー、タオルなどのリネン類の消毒は80℃・10分間の熱水洗濯が適している。
消毒剤を使用する場合は0.1%次亜塩素酸ナトリウム浸漬消毒を行う。
マットレスはシーツなどをかけ、汚染しないように配慮する。

患者移動

患者の移動は可能な限り避ける。移動させる必要が生じた場合、飛沫の拡散を避けるため、外科用マスクを着用させる。

面会者

仮に医療機関によって面会が許された場合も、面会者は最低限に抑えなければならない。面会者にはマスク、手袋などのPPEを渡し、医療従事者による監督下で患者と接すること。

詳細については下記をご参照下さい。

重症急性呼吸器症候群(SARS)に対する消毒法 
 
感染症情報センター ホームページ
SARSの管理例(6訂)(2003年6月10日)
http://idsc.nih.go.jp/disease/sars/mgmt-06.html
家庭・職場における消毒の指針(2003年6月3日改訂)
http://idsc.nih.go.jp/disease/sars/desinfect04b.html
重症呼吸器症候群(SARS)の院内感染対策指針(2003年4月24日3訂)
http://idsc.nih.go.jp/disease/sars/update37-2.html
予防・治療

 WHOは的を絞ったインフルエンザワクチンを使用することにより、インフルエンザによる健康被害を減らすとともに、SARSの誤認や、高価な検査を必要とするような疑いを招く可能性のある呼吸器疾患症例数の減少を図ることができるとの提言をしている。
 SARSは有効な根治的治療法はまだ確立されておらず、通常の肺炎(異型肺炎を含む)に対する治療および臨床症状に応じた治療を行うことになる。また、肺病変が進行する場合には、酸素療法や人工呼吸器での管理が必要になる可能性がある。
 海外では抗ウイルス剤であるリバビリン(国内未承認薬)の静脈内注射とステロイド剤の併用療法の報告があるが、無効であり、多くの副作用が出現するとの否定的な報告もある。

参考資料

下記ホームページをご参照下さい。

国立感染症研究所 感染症情報センター ホームページ
http://idsc.nih.go.jp/index-j.html
厚生労働省ホームページ
http://www.mhlw.go.jp/
SARS(重症急性呼吸器症候群)の情報源 ホームページ
http://www.geocities.co.jp/Technopolis/7663/
東京都感染症情報センター ホームページ
http://idsc.tokyo-eiken.go.jp/